『女の影』

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『女の影』

 バレンタインデーがやってきたが、どちらの息子もチョコレートをもらった様子がない。県外にいる息子に「いい娘がいたら玉砕覚悟で」とメールを送る。「ちょっと難易度高くて無理そうだけどね」と、返ってくる。  嫁さんに伝えると、「30ぐらいになれば、物足りないけど真面目だからいいか、という女もいるから」と、達観した答えが返って来る。「それはあれか、おれの事か」という言葉をかろうじて飲み込む。  目の前のテレビでは女性のアナウンサーが街角でインタビューしている。 「彼氏の携帯は見るか?」「彼氏が昔の彼女の写真を持っていたらどうする?」 「捨てさせる」「捨てるべきだ」「見つけたら勝手に捨てる」「アドレスを消去する」と、にべもない答えが返ってくる。スタジオのタレントも同様の答えである。 「捨ててやる」は、ともかく、「捨てるべきだ」は、妥当な意見だと頷いた……頷いてはみたものの何やら違和感があった。    思い出したのである。わたしのアルバムには最近の言葉で言う「モトカノ」の写真が堂々と貼ってあることを。実家にあるのではない。手元にあるのである。
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