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 夏生の小学校最後の夏休みが終わった翌日のことだった。 「夏生、朝だよ。今日から学校!2学期よ。起きて」 「ばあちゃん、僕、今日休む。おなか痛い」 「じゃあ、病院に行かなきゃ」  夏生は母親に知らせに行こうとする祖母のケイ子のTシャツの裾を引いた。 「ばあちゃん、今日だけ、お願い」  ケイ子は夏生が仮病で休もうとしていることに気づいた。おなかが痛いというのは嘘かもしれないが、この暑さにもかかわらず、唇が青ざめているのをみると、何か理由がある、今日だけは休ませてやろうと思った。 「今日だけ、ね。じゃあ、ばあちゃんがお母さんにうまく言ってあげる。でも、明日は行くのよ。約束だからね」 「うん」  ケイ子は夏生の母である娘の耳元で何か囁いた。彼女はケイ子をちょっと睨んだが、諦めたように言った。 「わかったわよ、学校に連絡すればいいんでしょ。その代わり絶対に外に出るとかナシよ。家で大人しくさせといて」 「はいはい、私が見張ってるから大丈夫」  夏生の母はいつも通り仕事に出かけていった。  翌日も夏生は学校には行かなかった。母親は一度だけ学校に行くよう促したが、すぐに諦め、今日も休むと学校に電話を入れ、仕事に出かけた。 「昨日、約束したじゃない。夏生」 「ばあちゃん、大きな声出さないで。頭痛いから」  両手で耳をふさぐ夏生の頭の上で言葉を変えながらわめき続けた。そのうち、何かぶつぶつ言いながら部屋を出ていった。  ケイ子が出ていくのを待って、夏生はキッチンでいくつか袋菓子を調達し部屋に閉じこもった。  夕方、夏生の担任が家にやってきた。ケイ子が対応している。夏生の部屋に入っての確認のため、ケイ子のバリアをこわそうと試みている。 「夏生君の具合はいかがですか?」 「昨日よりはいいようです。明日は行けるかと…」  玄関でケイ子がそう答えている。 「顔が見たいので会えませんか? やっぱり顔を見たいじゃないですか」 「さっき見たら寝ていましたから」 「明日の時間割について話したいんで」 「寝てますから」 「本当に具合悪いんですよね」 「えっ、どういう意味ですか?」 「いや、休み明けはどうしても休みがちになる子がいて、もしかしたらと思いまして」
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