14人が本棚に入れています
本棚に追加
2
夏生の小学校最後の夏休みが終わった翌日のことだった。
「夏生、朝だよ。今日から学校!2学期よ。起きて」
「ばあちゃん、僕、今日休む。おなか痛い」
「じゃあ、病院に行かなきゃ」
夏生は母親に知らせに行こうとする祖母のケイ子のTシャツの裾を引いた。
「ばあちゃん、今日だけ、お願い」
ケイ子は夏生が仮病で休もうとしていることに気づいた。おなかが痛いというのは嘘かもしれないが、この暑さにもかかわらず、唇が青ざめているのをみると、何か理由がある、今日だけは休ませてやろうと思った。
「今日だけ、ね。じゃあ、ばあちゃんがお母さんにうまく言ってあげる。でも、明日は行くのよ。約束だからね」
「うん」
ケイ子は夏生の母である娘の耳元で何か囁いた。彼女はケイ子をちょっと睨んだが、諦めたように言った。
「わかったわよ、学校に連絡すればいいんでしょ。その代わり絶対に外に出るとかナシよ。家で大人しくさせといて」
「はいはい、私が見張ってるから大丈夫」
夏生の母はいつも通り仕事に出かけていった。
翌日も夏生は学校には行かなかった。母親は一度だけ学校に行くよう促したが、すぐに諦め、今日も休むと学校に電話を入れ、仕事に出かけた。
「昨日、約束したじゃない。夏生」
「ばあちゃん、大きな声出さないで。頭痛いから」
両手で耳をふさぐ夏生の頭の上で言葉を変えながらわめき続けた。そのうち、何かぶつぶつ言いながら部屋を出ていった。
ケイ子が出ていくのを待って、夏生はキッチンでいくつか袋菓子を調達し部屋に閉じこもった。
夕方、夏生の担任が家にやってきた。ケイ子が対応している。夏生の部屋に入っての確認のため、ケイ子のバリアをこわそうと試みている。
「夏生君の具合はいかがですか?」
「昨日よりはいいようです。明日は行けるかと…」
玄関でケイ子がそう答えている。
「顔が見たいので会えませんか? やっぱり顔を見たいじゃないですか」
「さっき見たら寝ていましたから」
「明日の時間割について話したいんで」
「寝てますから」
「本当に具合悪いんですよね」
「えっ、どういう意味ですか?」
「いや、休み明けはどうしても休みがちになる子がいて、もしかしたらと思いまして」
最初のコメントを投稿しよう!