1/2
前へ
/7ページ
次へ

 ばあちゃんの葬式がすんで僕は学校に行きだした。けれど、クラスでもどこでも僕はひとりぼっちだった。休んでいる間にばあちゃんが余計なことをしたためだ。僕に関わるとヤバイ、と学校中のみんながそう思うようになっていたことに気づいた。  一週間もしないうちに僕は学校に行かなくなった。 「夏生、今日も行かないの? ママは仕事に行くから、学校に行くんだったら鍵かけてってね」 「うん、ばあちゃんのせいで僕の居場所がなくなった」 「勉強は家でもできるから、中学校から行けば」 「そうだね、ママ」  春になって僕は中学生になった。中学校には卒業式にも出てないけど、卒業した小学校じゃない隣の小学校の子たちがいる。不登校だった僕に友達ができるかもと淡い期待をした。けれどすぐに無駄だったことがわかった。しばらく行って、2、3日休んで、行って、休んでを繰り返し、夏休みになるまでは行った。  それから中学に通うのをやめた。毎年夏休みが来るとあの夏の終わりを思い出し、後悔はないけれど、憂鬱になった。  夏が来た。今度は2年で戻ってきたよ。またクマゼミだけど。夏生、成人おめでとう。学校に行かないんなら、社会に出て働こうよ。バイトでもいい。ママにいつまで面倒をかけるつもりなんだい。  今回の生まれ変わりの目的は夏生にあたしを手づかみに生け捕らせること。近くの木で数日好機を待った。セミは1週間の命というけれど、実は2週間以上生きられる。セミによっては1ヶ月もだよ。人間に捕まると短命になる。そりゃあストレスかかるからね。  台風が来た。そんなに大きくないやつだが、雨戸を閉め忘れた夏生の部屋の網戸ががたついて隙間ができた。気づかずに窓を開け台風一過の返しの風を入れて眠っている。生け捕らせる目的以上のチャンスだ! バカな孫めがけて飛び降りた。2年前より少しぽっちゃりした柔らかな二の腕を目指して。 「いってえー! 痛い、痛い、くそババア!」  夏生が脇をさすっている。二の腕に到達する前に柔らかそうな脇の下にあたしは産卵管を思い切り刺した。夏生にはらい落とされた。産卵管は残して。あたしの3回目の生まれかわり人生、じゃなくて虫生もあと少し。そうそう、クマゼミ姿のばあちゃんを感じて、くそババアと言ってるのかと思ったら、セミを全部くそババアと呼んでるとは、ちょっと残念だったよ。夏生が生きてたら、また来るから。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加