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 まだ暑さは残っているが、この時間はずいぶん過ごしやすくなっていた。ケイ子は毎朝毎朝夏生を起こし、学校に行くように責め立てるのである。 「夏生、学校に行きなさい。もう大丈夫だから。約束したでしょ、1日だけって」 「うるさい。もう僕に構わないで!」 「せっかく、あたしが夏生のために頑張ったのに。あんたはあのろくでもないあんたの父親にそっくりになってきた。あー、イヤだイヤだ」  夏生は今はいない大好きだった父親の悪口を言われ、部屋を出ていくケイ子のあとを追った。そして、いつも抱いて寝ていた身長の三分の二サイズの大きな牛のぬいぐるみをケイ子に向かって投げた。 「あぁー!!」  夏生の牛がちょうど、階段を下りようとしたケイ子の背に思い切り当たった。小学生といえども6年生となれば、大人と変わらない子もいる。7月生まれの夏生はどちらかといえば大きい方だったし、力も強かった。ケイ子は牛のぬいぐるみに背中を押されて階段を転げ落ちた。  夏生は階段下をおそるおそるのぞいた。ケイ子が倒れている近くにぬいぐるみが転がっていた。血は出ていないように見えるが、動かない。彼は祖母の様子を見にいくことにした。初めはちょっと、段々と強めにゆすってみたが動かない。鼻に手を近づけてみると息をしているので、どこかに頭を打って脳しんとうを起こしているのだろう。牛を回収し部屋に戻る。父親が誕生日にくれたホルスタインだった。  マンガを数冊読み終えて、のどの渇きに気がつき飲むものを取りに部屋を出る。その時にはケイ子の姿はなかった。そっと祖母の部屋をのぞくと布団に入って寝ていたので何だか損をしたような気分だった。  ママが帰ってきた。ご飯が用意されてるはずのテーブルに何もないのを不思議に思い、ばあちゃんの部屋に入った。夕飯も作らず真っ暗な部屋で寝ているのを見て言った。 「お母さん? どうしたの?」 「ちょっと気持ち悪いのと頭が痛いから夕飯作れなかった。ごめん」 「いいよ。ご飯作ったら食べる?」 「いらない。寝るから」  元気のないばあちゃんは珍しく、さすがのママもちょっと心配になったのか僕に聞いた。 「夏生、何かあった?」 「知らない。ご飯だと思って、今さっき2階から下りてきたとこだし」
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