おとまりとおにごっこ

1/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

おとまりとおにごっこ

 夏休みだった。  おぼんを前に、ぼくと妹の七海と母さんとで、母さんの妹の月子おばさん――月ネェのアパートにあそびに行った。アパートは、ぼくの家から車で三十分ぐらいだ。  月ネェは、まだけっこんしていなくて、アパートに一人ですんでいる。  アパート近くの川や公園であそんだりしていると、あっという間に夕方になった。そろそろ帰ろうか、という時になって、七海が月ネェのところにとまると言い出した。 「今日、月姉ちゃんのとこにおとまりしたいぃっ」  言って、七海はすわりこんだ。スーパーのおかし売り場で、すきなアニメのおかしを見つけた時と同じで、こうなると引きずって動かすしかないんだけれど。 「うちでいいなら、とまっていって」  月ネェがわらって言った。 「月ちゃん。それじゃ、おねがいね」  と、くしょうまじりの母さん。七海は月ネェのアパートにとまることになって、ぼくと母さんは家に帰った。  夜、ねる前。  自分の部屋のベッドで、ぼくは母さんのくしょうを思い出していた。ぼくには、思い当たることがある。  じつは、小さいころ、ぼくも月ネェのところにとまりたいと言ったことがあった。そして、とまったはいいけれど……。ぼくは、夜中に、うちがこいしくて大なきしてしまったんだ。夜中にもかかわらず、月ネェは、ぼくをうちまでおくりとどけてくれた。  母さんのくしょうは、多分、あの時のことを思い出したものだろう。  七海のやつ、ぼくのように、ないて帰って来なければいいけれど。  う、ん?  ……それはそれで、ぼくの立場がないような気がする。  いや、でも。月ネェにめいわくかけちゃいけないし……。  そんなことを思いながら、ねむった。  のどがかわいて目がさめた。  あかりをつけて目ざまし時計をかくにんすると、午前二時だった。 「麦茶でものもう……」  台所に行って、あかりをつける――と。 「わぁい。お兄ちゃんだぁ」  ……七海が、いた。 「どうしたんだよ。びっくりしたじゃないか」 「本当? びっくりしたぁ? やったぁ」  と、七海がわらう。 「なんだ。けっきょく帰って来たのか」  ぼくは、手近なコップをとり出しながら言った。  れいぞうこをあけて、麦茶ポットの麦茶をつぐ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!