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 俺の部屋にはベッドと車椅子、そしてテーブルの上に水槽があるだけだ。 白い壁に囲まれた病室を思わせる部屋。味気ないというやつもいるが、それで十分なのだ。  横になると目を閉じる。戦闘の興奮もない。俺はすぐに眠りに落ちた。 *** 「凌ってば、早く行くよ」  唯が俺の手を取った。藍地に朝顔を散らした浴衣の裾から白いふくらはぎがちらりと見えた。 「うっさいなあ、そんなに急かすなよ」  俺はどぎまぎしてその手を振り払った。長い黒髪がふわりと舞って唯がこちらを向いた。 「もう、何よ」  唯が頬を膨らます。俺たちは近所の祭りの夜宮に向かうところだった。蒸し暑い真夏の夜だった。テレビでは火山活動に注意するようにというニュースをやっていたが、近くにあるのは何百年も噴火したことのない休火山だ。誰もが気にも留めていなかった。  鳥居をくぐると、唯は花から花へと舞う蝶ように、いろいろな出店を回った。人類が宇宙に進出しても変わらないものはある。
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