Siと言うまで帰さない

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 シェフの皆さまはもう結構です、と言われてキッチンを後にした。  控室にはシャワールームもついていたので、加賀美はありがたくシャワーを浴びた。仕込みも入れたら5時間ほどキッチンにいたから、油くさくなっている。料理の匂いは髪や指先にしみつくのだ。  この後の展開が読めないが、体を拭いて私服に着替えた。  メイドに案内されて裏口から建物の外に出ると同時に「セニョール・カガミ」と声を掛けられた。  スーツの男性が「こちらです」と案内する先には黒い車。  用意がいいんだなと苦笑する。  名も知らない相手の誘いに乗っていいものか。  ちらりとそんなことを思ったが、まあいいさと大人しく後部座席に乗り、そのまま10分ほど走って車はどこかの建物に着いた。  地下駐車場に入って車のドアを開けてくれた運転手が「これをどうぞ」とカードを差し出す。  エントランスには誰もおらず、オフィスビルのようなエレベーターが五基だけ。スロットにカードを差し込むと真ん中に5と書いてあるエレベーターが開く。  音も振動もほとんどなく上昇し、扉が開いたので降りた。  無機質だった地下のエントランスとは一転、エレベーターホールには大きな花瓶に生花が活けられ、上品な間接照明に壁際には水が流れるスクリーン、どこからか控えめなピアノの演奏が聞こえる。  ホールを出た先にドアは一つしかない。ドア横にインターホンがあったので、カードを入れずに押してみた。  中からドアが開いて、さっきパーティ会場で会った優美な男が立っていた。
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