Siと言うまで帰さない

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 ジャケットは脱いでシャツ姿になっている。  緩めたネクタイがセクシーだった。  やわらかく微笑んだハニーブラウンの瞳と目が合った瞬間、やはり好みだと思った。 「チャオ」  かるく引き寄せられて唇が重なった。  背後でゆっくりとドアが閉まる気配がする。  男は急がなかった。唇を触れあわせたまま擦り合わせて、弾力を確かめるように唇を食む。 かるい戯れ合いがしばらく続き、そっと舌先で誘われた。  素直に舌を差し出すと、すぐに深いキスになる。  成り行きでここまで来てしまったものの、加賀美はまだ態度を決めかねていた。  パーティでちらちらとチェックした彼は、退屈そうで憂いを帯びた横顔がとても色っぽかった。何人もの男女が声を掛けていたが、どの相手にも同じようにつまらなさそうな顔を見せていた。  一緒にいた金髪の男は陽気なタイプのようで、二人の周囲には人が途切れなかったが、最後まで彼の笑顔は見られなかった。  品のいい顔をした彼はキスまで上品で、舌を絡めあっていても卑猥な感じがまったくしない。  このままベッドに直行でも構わないが、それはなんだかつまらなかった。このまま彼の手順に従ったセックスをするのは退屈だ。もっと欲しがらせて、淫らに溺れる彼が見たい。  どういう気まぐれで自分を誘ったか知らないが、加賀美の中で生来の天邪鬼が顔を出してきた。
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