Siと言うまで帰さない

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 パーティ会場は大きなクルーズ船だった。  事前に「服装は?」と確かめた加賀美にリカルドは「よければコーディネイトさせて」と答えて、セレクトショップに連れて行った。 「悪いけどオーダーする時間はないから既製品で我慢して」  我慢もなにも日本でもオーダーなんかしたことはない。割烹料理屋勤務の加賀美にスーツを着る必要はほとんどなかった。  6畳ほどもあるソファセットまで置いてある試着室で、呆れるほど何枚ものシャツとスーツを試着させられた。  ベルトやタイ、靴からポケットチーフに至るまで一式をリカルドが納得するまで合わされて、なるほどこの男の格好よさはこうして作られるのかと加賀美は納得した。  ソファに優雅に座ってエスプレッソを飲みながら、リカルドは加賀美の着替えを楽しげに眺めている。  試着と言っても加賀美はただ立っているだけで、店のスタッフがすべて着せてくれるという加賀美が体験したことのない試着の仕方だ。  そして最終的に3組のスーツをリカルドは選んだ。 「こんなにいらない」  物好きだなと思いながら拒否する。 「僕がこれを着ているアキトが見たいんだ」  リカルドはさわやかに笑って取り合わなかった。
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