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そして面接の日。
指定された人物象に合わせた服装で早めに家を出た。
バスと徒歩で時間には間に合うよう到着した私は、着いて早々呆然と立ちつくしてしまう。
「すごい豪邸・・・」
目指した住所にはいままで見たこともないような大きな洋館が建っていた。
高い塀がずっと続いていたので一体何だろうと思っていたらそれが目的地だったのだ。
しばらく言葉を失っていたが意を決してインターホンを押す。
「はい、どちらさまでいらっしゃいます?」
丁寧な口調の男性の声がすぐに返ってきた。
「わ、わたくし水瀬と申します。本日は榊原雛さまのお見舞いに訪問させていただきました」
何とか言えた。理由は不明だが注意事項には面接部屋に入るまでの応対例と台詞も記されていて、それらを暗記しなければならなかった。今の私はお見舞いにやってきた榊原雛さんの友人ということらしい。
役になりきるのも試験だとしたらひょっとしてモデルというより役者?
「お待ちしておりました水瀬様。どうぞお入り下さい」
大きな扉を開いて中に入る。
外からは見えなかったが今度は見事な英国庭園が視界を覆った。
広すぎて全貌がわからないけど上の階の窓から見下ろせばさぞかし素晴らしい眺めだろう。
またしても呆然と立ち止まっていることに気付き、ぎこちない足取りで洋館へと向かう。
それにしても玄関までが遠い。忘れ物したら取りに戻るのが大変だな。
などと庶民的な心配をしていると少し離れたところで剪定中の庭師の方がこちらに気付いたので、軽く会釈をして通り過ぎようとしたそのとき。
「お嬢様!」
突然その庭師がこちらに向かってくるではないか。こんなことは書いていなかったはず・・・アドリブを試されているのか?
「わ、私のことでしょうか?」
庭師のほうに体ごと向き直りながら満面の作り笑いを浮かべる。
すると何かに気付いたらしく急に立ち止まった。
「これは・・・失礼をいたしました」
頭を下げて仕事に戻っていく庭師。
今のは問題なかったということだろうか。いづれにせよ部屋に着くまでも気が抜けないようだ。
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