七月二十一日、教室の話

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七月二十一日、教室の話

 七月二十一日、金曜日。夏休み前日ということもあってか、校舎は夏のはじめ頃に相応しい心地よく密かな情熱を隠した摂氏三十度に包まれていた。響く笑い声が、何かの呼び声のように感じられる。相変わらず教室の中では何時も何処かから『天使様』の噂をする声が聞こえてきて、耳に入る度に少しだけ息が詰まる気がした。  終業式が終わり、担任から渡された通知表には可もなく不可もない成績が只管に並べ立てられている。それは僕にとっては夏の平穏の保証書でもあった。綴られている結果にすっかり安心して、さあ夏休みをどう過ごそうか、なんてことを考えている時、廊下側の扉の外に「何か」が見えた。生徒でも教師でも、そもそも人でもない。挙動、放つ存在感、凡そ感じたことのない違和感。それと、僅かな既視感。僕以外の教室にいる誰もがそれに気づいていなかったらしく、普段通りの空気が流れ続けていたのがより一層それの不気味さを掻き立てていた。視界から外してみてもどうしても気になって仕方がないので、クラスメイトに一言トイレだと告げて席を立つ。  一歩外に出ると、それはいた。
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