1.見つけちゃったの、お兄ちゃんの本棚で

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1.見つけちゃったの、お兄ちゃんの本棚で

 列車がトンネルを抜けると、青い海が広がった。朝の太陽は窓から僅かに斜めに差し込むだけなのに、明るくて目が眩みそう。光を内側に貯めたような空は、主役をすっかり太陽に奪われているよう。今年の夏は、暑くなりそうね。  始まったばかりの夏休み、高校一年生の海音(まりん)は、デニムの上にTシャツというラフな格好で、一路湘南を目指していた。車内は比較的空いている。叔父が海の家をやっていて、この夏は、店のお手伝いをしながら過ごすことになる。「大学受験のお兄ちゃんを一人で置いてけないじゃない。」と母に言われて、今年は一人になってしまった。海外に単身赴任している父は、お盆の頃に一時帰国して海音と合流することになっている。  海岸で過ごす夏休み。本当なら、うきうきするはずなのに、そんな気分じゃない。昨日、お兄ちゃんの部屋で余計なものを見つけてしまったばっかりに、海音の心は沈みきっていた。窓の外に広がる水平線をぼんやり眺めていると、そんな馬鹿げた話があるものか、あってはいけない、と思ってしまう。  だって、私、まだまともに恋もしていないのよ。ひどいじゃない。あとほんの一月でどうしろっていうの?困るぅ。
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