2.真っ黒に日焼けしたサーファー

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 南から爽やかな風が吹いてくる。屋根の下にいたときは、涼しいと感じていたが、日の光の中に入っていくと、そうでも無くなってしまう。海水の温度も上がった後なので、恐る恐る入っていった海音は、なあんだ、こんなにぬるま湯なのかと思った。これは、少し沖まで泳いで行って、素潜りするしかなさそうだ。  最近は、都内で育っていても幼稚園の頃からスイミングスクールに通うので、泳げる子は多い。海音もその一人で、クロールですいすい進んで行く。遊泳範囲のロープの傍まで行って、今度は潜水だ。あごを引き、腕は頭の後ろで肘を伸ばして手首から先が水平よりも上向きにならない姿勢を作る。バタ足を水面すれすれでやってキックして潜り込む。彼女が行ってしまった後には、パシャンという音と小さな波紋が残った。  グアムや沖縄の海のように透明ではないが、それでも海藻や魚は見えた。泳いでいるとき、潜っているとき、彼女は自分が人魚になったような特別な感覚を持つことができた。本当は、地上ではなくて海が自分の生きる場所のような気分になる。息が続くなら、ずっと海の中にいたい、と心から思う。
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