還るべき場所

2/3
前へ
/9ページ
次へ
【サトウくん、船が来る】 ゆっくりと誘うように泳ぎだした彼女を追った。 楽しい遊びの時間だ。 尾びれが水を打つたびに速度が上がった。 思わずハミングしたくなる。 【来て! 見て! あなたの船よ】 マリアンに追いついた佐藤は、船上の人影を見て驚いた。 リモコンを使って操舵しているのは、舟橋澪だ。 彼女の横で、こちらに双眼鏡を向けている日焼けした男性は……、彼自身だった。 【僕がいる! マリアン、僕が船に乗っているよ。どうしてかな】 驚きのあまり警戒音を立てると、男が声を掛けてきた。 「佐藤くん、怖がらなくていい。心配することは何もないさ」 澪が男の腕を引く。 「佐藤くんが来ているの? どこか教えてよ、アーネスト」 アーネストと呼ばれた男は澪の腰に手を回し、空いている手でまっすぐに彼を指差した。 あのイルカだよと声が聞こえる。 「佐藤くん! ボクの言う事がわかるなら、返事をしてくれるかな」 彼が立ち泳ぎをしながら、君がこの体の持ち主だったアーネストかと質問すると、船上の男は飛び跳ねた。 「そのとおりだよ。……ほら澪、返事しただろう。すごいよ。佐藤くんはボクの言葉が理解できるし、ボクは彼の言葉が理解できるんだ」 マリアンと澪には二人の会話が半分ずつしか分からない。 彼とアーネストはお互いのパートナーに通訳しなければならなかった。 佐藤はおぼろげながら、シロナガスクジラの伝えた預言を理解し始めた。 「海の声を聴け」と言うのは、双方向のコミュニケーションを取れという意味ではないのか。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加