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【サトウくん、船が来る】
ゆっくりと誘うように泳ぎだした彼女を追った。
楽しい遊びの時間だ。
尾びれが水を打つたびに速度が上がった。
思わずハミングしたくなる。
【来て! 見て! あなたの船よ】
マリアンに追いついた佐藤は、船上の人影を見て驚いた。
リモコンを使って操舵しているのは、舟橋澪だ。
彼女の横で、こちらに双眼鏡を向けている日焼けした男性は……、彼自身だった。
【僕がいる! マリアン、僕が船に乗っているよ。どうしてかな】
驚きのあまり警戒音を立てると、男が声を掛けてきた。
「佐藤くん、怖がらなくていい。心配することは何もないさ」
澪が男の腕を引く。
「佐藤くんが来ているの? どこか教えてよ、アーネスト」
アーネストと呼ばれた男は澪の腰に手を回し、空いている手でまっすぐに彼を指差した。
あのイルカだよと声が聞こえる。
「佐藤くん! ボクの言う事がわかるなら、返事をしてくれるかな」
彼が立ち泳ぎをしながら、君がこの体の持ち主だったアーネストかと質問すると、船上の男は飛び跳ねた。
「そのとおりだよ。……ほら澪、返事しただろう。すごいよ。佐藤くんはボクの言葉が理解できるし、ボクは彼の言葉が理解できるんだ」
マリアンと澪には二人の会話が半分ずつしか分からない。
彼とアーネストはお互いのパートナーに通訳しなければならなかった。
佐藤はおぼろげながら、シロナガスクジラの伝えた預言を理解し始めた。
「海の声を聴け」と言うのは、双方向のコミュニケーションを取れという意味ではないのか。
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