青い海

1/3
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

青い海

海洋生物学者・佐藤正直はクルーザーの後部甲板で身を震わせた。 海が、怖いのだ。 波に合わせて上下する船の律動、海面が刻々と色を変える様子は美しいと思う。 鼻孔を刺激する塩分の匂いも好きだ。 佐藤が怖れているのは、意思を持つ生命体、「海」だ。 水着姿で一段高いブリッジに立ち、クルーザーを操舵する舟橋澪はちがった。 潮風をほほに受け、陽光に目を細めている。 数百メートル先でイルカが跳ねた。 「佐藤くん、イルカの群れ! 追うから」 彼の返事も待たず、スロットルを全開にする。 口元の笑みは次第にハミングへと変わり、幼い頃に覚えた海の歌が流れた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!