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「ねぇ、リカコは『青』と言ったら何を思い浮かべる?」
目の前の、まだ表情にあどけなさを残した少年が、キャンバスにコバルトブルーをのせる。
私はそんな彼の傍らにちょこんと体育座りをして、一日の大半を過ごしていた。
「青、青か……青い空、青い海、砂浜、ビーチバレー、かき氷、焼きそば……」
「ははっ、結局食べ物かよ」
一心不乱に『青』を描き続けていた少年が、筆を手にしたままケタケタと笑い転げた。
「なっ……なによ! じゃあ尚弥にとっての『青』ってなんなのよ」
ムキになって言い返すも、彼は至って冷静に答えた。
「俺にとっての『青』は──
──幸せの青い鳥」
「青い鳥って……あの物語の?」
「そうだよ」
彼は絵の具まみれの細い腕で、頭をガシガシとこする。
「俺は知りたいんだ。青い鳥の『青色』は、一体どんな色なのか。この目でたしかめたいんだ──」
そう言うと、彼は窓越しに空を眺めた。今この目で見える空よりも、もっとずっと遠くの方を見ているようだった。
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