第1章

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 僕と竹ちゃんが翔ちゃん家に行く途中には公園がある。坂下公園。そこを通り抜けていくんだけど、急に竹ちゃんの足が止まった。そして、ボソッと呟いた。 「あっ」  僕も足を止めて、竹ちゃんの視線の先を見る。  僕達の視線の先には翔ちゃんがいるのだ。  でもその翔ちゃん、誰もいない公園でスプリング遊具のウサギと見つめ合って座っている。クラスでも珍しいイガグリ頭の翔ちゃんと、長い耳に大きな目をしたウサギのツーショット。僕は心の中で叫んだ。翔ちゃん!そのウサギは背中に座るんだよ!って。だけど、首を傾けながら、ウサギの頭まで撫で始めた翔ちゃんを前に、ついに声に出す事は出来なかった。なんだか見てはいけないものを見てしまった気がして、チラッと横を窺う。横にいた竹ちゃんも、きっと僕と同じ心境だったんだろう。口を何度か開閉させたあと、こっちを向いた。 「なぁ、翔ちゃんどうしちゃったんだと思う?」  僕は控えめに頭を振って答えた。 「わからない。でも凄く不気味だよね。なんか……何かに取り憑かれちゃったみたい」  竹ちゃんは、チラッと翔ちゃんを見てから言った。 「ありえる。翔ちゃんの日頃の行い悪いからね。すぐ叩くし」 「そうだね、口も悪いし。でも……かわいそう」  竹ちゃんは、再びチラッと翔ちゃんを見た。 「……せめて見なかった事にしようか?」  僕は頷いた。  踵を返し、そーっとその場を去ろうとした、その時、 「おーまーえーらー!!」  声がした。振り返ると、ゆらゆらと立ち上がった翔ちゃんが、僕達の方を指差した。 「おい!!さっきから好き勝手言いやがって!!全部聞こえてんだよー!!」 「ギィやぁぁぁぁ――――!!地獄耳――――っ!!」  僕達は、悲鳴を上げるやいなや、逃げた。 「あ、コラァァ!待てコラァァァ!!」  僕は運動全般に自信がない。竹ちゃんも、「走るのだけは苦手なんだよね」と日常から言っているだけあって、僕と並走している。かたや……。  僕は肩越しに後ろを振り返った。翔ちゃんは、学年一の俊足だ。  結果、僕と竹ちゃんは坂を登りきらずして、すぐに捕まった。  首根っこをつかまえられた僕と竹ちゃんは、公園に連行され、先ほど翔ちゃんと見つめ合っていたウサギの前に立っていた。
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