第1章

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 僕は少し心配になった。翔ちゃんがこんなにもこのウサギに固執しているなんて。冗談のつもりだったけど、まさか、本当に取りつかれているなんてないよね。うん、まさか、まさかね……と、思いつつも、ついつい目が行ってしまう。 「なんだよ」  視線に気づいた翔ちゃんは、怪訝そうな顔をして耳を隠した。 「よかったー、出っ歯にはなっていないみたいだね」  竹ちゃんが、僕と似たような確認を取っている声がした。 「あのなー……」  翔ちゃんは両脇にいる僕達の顔を順々に見た後、大袈裟に溜息をついてから言った。 「俺は別にウサギに取りつかれたわけでも、呪われたわけでもねぇし。ただ、考え事をしてただけ」 「ウサギについて?」  と、尋ねる竹ちゃんに、ついに翔ちゃんは声を荒げた。 「だから、ちげぇーって!!昨日のことを考えてたの!!ほらー、昨日お前らと祭り行ったろ?その帰り、この公園で村山と会ったんだよ」  むらやま?と聞いて、記憶を巡らせる。むらやま……むらやま……クラスにも、隣のクラスにもいない名前だと思う。だけど、なんか聞いたことがあるような。ないような。 「村山って、もしかして翼ちゃんのこと?」  竹ちゃんの質問でようやく思い出した。村山翼。懐かしいなぁと思った。昔はよく四人で遊んでいた記憶がある。翼ちゃんは、僕と翔ちゃんと竹ちゃんで遊んでいると目ざとく見つけては仲間に入れろと暴れたのだ。翔ちゃんと翼ちゃんの喧嘩を、僕と竹ちゃんで止めるのが常だったのに、いつの間にかそれは常では無くなった。学年が上がるにつれ遊ぶ頻度が減ったのだ。今や私立の女子中学校に通学している彼女とは、会う機会もなくなってしまったが、あの翼ちゃんかぁ。 「他に誰がいるんだよ?」 「だって翔ちゃんが、村山なんて、よそよそしく苗字で呼ぶからぁ」竹ちゃんは両手で口許をおさえ、ニヤニヤしながら続けた。「昔は、ツバサ~、ツバサ~って呼んでたのにぃ」 「なっ!?おまっ、ホント、うっせーぞ!!」  竹ちゃんが手で防御を作るよりも、翔ちゃんの手が竹ちゃんの頭を叩く方が早かった。イテっと頭を抑える竹ちゃんを、翔ちゃんはまだ睨んでいる。うわっと。これは、まずい。話題を変えよう。 「で、でも、久しぶりだなぁ、翼ちゃん。僕なんて小学校の卒業式以降だから、半年ぶりぐらいだよ」 「まーな。俺も久しぶりだった。夏休みの始めの日に偶然会って、それっきりだしな」
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