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「一颯、置いてくぞ。」
我に返り声のする方へ視線を向ける。
甘味処の看板を指さしながらのれんを上げて待っている薫流がいた。
「ごめん。」
いつの間にか甘味処に到着していた。
急いで店内に入った。
エアコンの心地良い風が頭上の扇風機の風に乗り汗ばんだシャツに当たる。
思わず顔を上げ風を受けてしまう。
「ようこそ、おこしやす。」
小さなお盆に氷の入ったコップを持って来てくれた店員さんは、一颯の顔を見るなり目を細め「おや。また来てくれはったんですね。」と気さくな笑顔を見せてくれた。
「はい?」
驚いた一颯はコップを受け取りながら「此処は初めてですけど。」愛想無く言うとすかさず足元に蹴りが入り込んだ。
「いてっ。」
背中が丸まり蹴られた所を抑えながら前にいる薫流を見た。
物凄い形相で睨まれている。
(愛想良くしろ。)
無言で言われているような気になり不貞腐れながら店員さんをもう一度見る。
目を丸めて驚いている店員さんに「人違いだと思います。」小さく会釈をしながらメニューに視線を落とした。
「すいませーん。こいつ愛想ない奴なんですよー。多分人違いっすよ。店員さんのオススメなんかありますか?」
薫流が機転を効かせ、店員に話を振った。薫流に視線をやった店員は薫流との会話を楽しみ始めた。
その様子を黙って見ながら不貞腐れている一颯。
上機嫌でメニューをとった店員の後ろ姿を見ながら「誰と間違えたって、完全に立季の事だよな……。」独りごちた。
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