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旅館が近づいてくると一颯の足取りは途端に重たくなる。
ばったり立季と会ってしまったら今度は手を取られそのまま振り払う事は出来ない気がしている。
「どした?」
「や、別に……」
ふーんと言いながらも一颯の様子がおかしくなっていることに気が付いている薫流も一緒になって歩く歩幅を緩めた。
「もしかして、だけど今朝の他校の話気になってたりしてるのか?」
「他校の話?」
「夜に出歩いたってやつ。あれ聞いてからなんか様子おかしくないか?」
「なにその話。それよりその荷物どうやって持って帰るつもり」
「あの他校って確か、赤羽の学校だったような……。」
一颯は適当に誤魔化しながら、話題を変えようとするもすぐに戻されてしまう。
赤羽とはあれから全く関係がなくなり名前すら忘れかけていたのに、嫌な名前を出してきたと感じる一颯は露骨に顔に出すと「あぁ、ごめんごめん。一颯にはこの名前は地雷だったな」
「わかってて言ってるだろ」
「赤羽の学校って確か進学校って聞いたけど、なんか聞いてる限り素行はあんまりよくない輩ばっかだな。」
「僕には関係ない」
***
旅館に戻り一颯と薫流はそれぞれの行動をとっている。
テレビの電源を入れ、スマホを手にしながら座椅子に座っている薫流。
「薫流。いつも気になってるんだけど、テレビ見るのかスマホいじるのかどっちかにしないのか」
「ん?別にテレビって、音楽聞いてる感覚なんだけど。」
「あ、そう……」
少し離れた所で様子をうかがっている。
時々なるスマホの着信にびくつきながらいると、突然薫流が立ち上がりこちらに向かってきた。
驚いた一颯は目を丸め薫流を見上げている。
「なぁ。」
「な、なんだよ」
「風呂、行こう」
「……は???」
突然何を言われるかと思い構えていると拍子抜けする発言に一颯の腰は抜けた。
「なんだよ……びびった……」
「ん?」
「何でもない。ここって露天風呂だっけ」
「そう。気持ちよさそうだろ?」
「……そう、だね。行こう」
一瞬迷いを見せながらも露天風呂に向かう事にした。
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