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「立季もこの旅館にいるんだよな……。」
うっかり出くわしたら今度こそ逃げられる自信がない。
そう思うと綺麗に見えていた中庭が急に黒く見えてきた。
目をつむり邪念を振り払うように何度も首を横に振った。
こんな偶然があるのか、もしかして繋がっている?
何が?
止めようと思った思考は更にグルグルと回り続ける。
「ダメだ。」
腕時計に目をやり薫流を起こしに戻ることにした一颯は中庭をもう一度見渡し中に入った。
***
テレビの音を大きくして水の音が聞こえる部屋に戻ってきた一颯は、違った意味のため息を漏らした。
恒例の光景だと思うと少し気が抜けそうになりながらテレビの音量を下げ、バスルームへ向かった。
「またテレビの音量が大きくなってる。薫流?」
「んぇ?何?」
シャワーを浴びている薫流の方に声をかけ鏡に映る自分を見た。
まだ少し眠たそうな目、誰とも口を利かない時のように一文字に閉じた口。
仏頂面と言われ続け作り笑いを何回も練習したのに、どうしても立季のようになれない。
「僕は、僕だ。」
鏡に向かってボヤくように言うと「何言ってんだ?」薫流がシャワーを浴び終え一颯の背後に立っていた。
「こんな状況朝からなんかエロイな。」
「意味わかんないし。」
「だってさ、ホラ俺の見てみ?」
つられて視線を下げると立派に勃起した薫流のそれがあった。
「お前……。」
「や、これは朝のさ??ね?あぁ、でも湯気に包まれてる一颯に少し興奮してるかも。」
「ふざけるな。」
一颯はそう言ってバスルームを出た。
出がけに「テレビの音量もっと下げてよね。」と言い捨てながら窓際に向かった。
髪の毛を拭きながら「朝飯行くだろ?」声をかけられたが、一颯は朝食を食べる気にはなれなかった。
「一人で行って来たら。」そう言われ薫流は渋々一人で朝食に向かった。
もし立季がいたら……。そう考えてしまい躊躇してしまった。
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