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腹を満たした薫流が満足げに鼻歌を歌いながら戻ってくると「一颯も来ればよかったのに。」と想像通りの言葉をかけられた。
「別にお腹すいてなかったから大丈夫だよ。」
そう言って荷物をまとめ出入り口の近くにある姿見で自分の格好を再確認した。
「なぁ。こんなところにまで来てそんなしっかり制服着るのか?」
「こう言う所だからこそ、だよ。誰に見られてるかわからないんだ。」
「ハイハイ。おかんみたいだな。」
「なんとでも言えよ。」
薫流と視線を合わせることなく部屋を出た。
静まり返った部屋に残された薫流は「なんかピリピリしてる?」一颯の様子がおかしい事に薄々感じながらそれを聞くことが出来ないでいた。
***
翌日の日程も順調に過ぎていった。
何処か心ここにあらずの一颯は汗ばんだ首元にハンカチを当てながら空を見上げた。
「……暑すぎる……。」
「残暑っていうか、まだ夏!って感じだな。」
「何処か甘味処入らない?甘いものが食べたい。」
「お、いいねぇ!行こう行こう!」
ざわつく道路を歩きながら前にも同じく修学旅行生らしき学生を見つけ一颯は思わず足を止めた。
「ん?どした?一颯。」
隣から姿が見えなくなり振り返った薫流も一颯の視線の方へ目をやる。
「あぁ、あれ俺たちと同じ旅館に泊まってたどっかの高校生だろ?」
「……そう、なんだ。」
「昨日揉め事があったらしいぜ?」
「揉め事?」
「夜中に生徒数人が部屋から抜け出して街に出たらしい。馬鹿だよな。」
「…そう……。」
一颯の頭の中は立季の事でいっぱいになってしまった。
もしその生徒が立季だったら……。
でも、立季は頭のいい男だ。彼はそんな後々自分に不利益になるような行動はしないはず。
「一颯ぃー。」
でも、自分の部屋を探すためにもしかしたら夜な夜な徘徊をしていたかもしれない……。
「おーい。」
負の思考が再びめぐり始める。
忘れろと思えば思うほど立季が自分の中に入り込んで支配していく。
こんなのもう嫌だ……。
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