第三話「逃れられない」

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運ばれてきた色鮮やかな抹茶パフェを目の前に薫流はテンションが上がったようで満面な笑みを浮かべている。 「抹茶ぜんざいお待たせしました。」 一颯の前には黒いトレーに丸い透明ガラス容器に入ったぜんざいが置かれた。 「……薫流。」 「ん?」 一颯は薫流の前にあるパフェをににらみつけた。 「なんで僕のはぜんざいなの。」 「は?」 口を尖らせスプーンでパフェを指す一颯。 「え、なにそれ。こっちが欲しいのかよ。ってか可愛すぎだろ。」 「う、煩い。同じものを頼めばよかっただろ。」そう言いながらスプーンを持っている手を伸ばす。 パフェの器をひょいと持ち上げ取られるのを阻止する薫流。 「あ、ちょっとなにすんだよ。ずるい。」 「なんでだよ。そっちに一颯のために頼んだぜんざいがあるだろぉ。そっちだって抹茶だし白玉入ってんだぞ?」 「そういう問題じゃない。」 「はぁ???」 真顔でパフェを狙いに来る一颯を見ていると笑わずにはいられなく吹き出すと「笑い事じゃないからな。」スプーンで薫流をさす。 「可愛すぎてたまらない。」 「おい。」 「わぁかったわかった!!」 パフェをテーブルに置いて一颯の前に置く。 ようやくご機嫌が直った一颯は薄っすらとほほ笑んでいるように見えた。 「一颯って甘いものそんなに好きだっけ?」 「ほかの甘いものは食べないけど、パフェだけは特別。」 スプーンいっぱいに乗せると大きな口を開けてほおばる。 「こんな一颯初めて見たかも……。」 ちょっとしたレア感を感じている薫流は、こっそりスマホを一颯に向け写真を収めた。 「これは滅多に見れない。」 「消せよ。」 「あ……。」 「こんなもん。」 こっそり撮ったつもりがばっちりとみられていた。 「あぁ!返せって。誰にも見せないから俺だけの楽しみ。」 「意味が分からないから。そんなの見てどうするんだよ。」 「夜のおかずとか?」 「馬鹿か。」 「十分おかずになるよ。だってスプーンをしっかり口に咥えてクリームを舐めてーーーーー「やめて。」 最後まで言う前に言葉を遮られ苦笑いで肩を上げる薫流。 言われた一颯は口に頬張ろうとしたスプーンを目の前に躊躇っている。 「そういう感じもそそられる。」 「薫流!!」 「ごめんごめん。」 一颯は薫流を睨みながらパフェを食べ続けた。
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