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「蓮兄!店がいっぱい!早く行こう!」
神社の入口に着くなり、道の両側に立ち並ぶ屋台に目を輝かせた由紀が興奮したように声を上げる。
隣に立っているものの今にもあっちへこっちへと飛び出して行きそうな由紀に、蓮は目を細めて嗜める。
「由紀、お店は逃げないからそんなに慌てなくても大丈夫。」
呆れた訳ではなく、由紀らしいなぁと予想通りの反応に微笑ましい気持ちでそう告げた。
「蓮兄とたくさんの店を見て回るんだー!行こっ、蓮兄!」
蓮の言葉は耳に届かなかったのか、由紀は満面の笑みを浮かべて蓮を見上げると、彼の手を取って縁日の中へと進んで行った。
「すっかり縁日の虜だね。お祭りが初めてってわけじゃないよね?」
人混みを進むので、手を引かれると言ってもそんなに引っ張られる事はない。
どちらかと言うと手を繋いで由紀が少し前を歩いている感じである。
「んーー…。セツナとはちょっとだけ見たけど…。ちゃんと楽しむのは蓮兄が最初。」
少しばかり考え込んだ後、由紀はその時の事を思い起こす。
その時は別の用事で先を急いでいたため、世話役のセツナとは縁日の前を通りかかっただけで終わってしまったのだ。
縁日がどういうものか説明はしてくれたけど、実際に体験するのは今日が初めてだった。
「だから、すげーワクワクしてる!」
立ち止まって、由紀が蓮を振り返る。
はにかむように笑った由紀に、蓮の胸がドキリとする。
いつだって由紀は全力で感情をぶつけてくる。
裏表無く、自然体で接してくる人間は今までなかなかいなかった。
だから嬉しい反面、戸惑ってしまうこともある。
けれど、由紀は…。
「そっか。由紀の初めてを貰っちゃうんだね。由紀がしたいことしよう?」
微笑んで、きゅっ…と握られていた手に力をこめると由紀がまた笑顔になる。
「うん!あ、でも蓮兄のしたいこともするんだからな!」
そう告げられて、蓮もまた由紀に甘く微笑み返したのだった。
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