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「うーー!!冷たぁ…!」
氷菓子を口に含んだ由紀が、両目をぎゅっと瞑ってその冷たさに耐える。
初めて食べるらしい、氷を小さく砕いて蜜をかけたその甘い食べ物に由紀はかなり感動していた。
「ふふ、そんなに美味しい?」
くるくる変わる由紀の表情を観察しながら、蓮は自分も手に持ったりんご飴を一口舐める。
「冷たくて甘いって、夏にぴったりのお菓子だよなー!毎日食べたい。」
一匙、また一匙と氷菓子を口に運ぶ由紀を見ながら、ひと息つくために神社の境内の隅で足を止めて良かったと蓮は心の中で思った。
目の前の氷菓子に夢中な由紀は、どう見ても浮かれている。
否、祭りに来た時から浮かれている。
人通りの多い祭りの中を歩きながら食べるとなると、由紀は何度人にぶつかるだろうか。
そんな心配がよぎり、ゆっくり食べよう、と由紀に提案して今に至る。
「確かに夏に食べたい物だけど、毎日だとお腹壊すよ?」
「氷菓子ぐらいなら平気だと思うんだけどなぁ。」
パクリともう一口含んで、蓮の言葉に納得いかない様子の由紀。
自分の事を心配してくれているのは分かっているのだが、諦めきれないようだ。
「由紀がどうしても、と言うなら止めないけど、他の皆を説得しないと難しいんじゃないかな。」
「あー…うん。そっかぁ。」
蓮の言葉に幸政と雷丸の顔が思い浮かぶ。
恐らく蓮以上に二人は『毎日氷菓子生活!』を許してはくれなさそうである。
「あの二人は由紀に甘いけど…過保護でもあるから。」
クスリと笑って、りんご飴を持っていない方の手で由紀の頭を撫でてやる。
心配する二人を想像して、思わず笑みが溢れた。
「蓮兄も甘いよ?」
「え?」
氷菓子から目を離して蓮を見上げた黒の瞳がまっすぐ、蓮の瞳を捕らえる。
ドキリとしたのは一瞬で、すぐに由紀はにっこりと蓮に笑いかける。
「はい。蓮兄にもおすそわけ!」
差し出された氷菓子の匙。
その意味を理解をして蓮は苦笑する。
「ありがとう、由紀。」
匙の上で灯りに照らされて光る氷菓子は、とても不思議な物に見えた。
吸い寄せられるように口にしたその甘味は、口の中で直ぐに溶け、甘い液体が喉を潤していく。
「甘いね…」
呟いた声は由紀には届かず。
「りんご飴も一口!」
蓮が持つりんご飴に由紀が顔を寄せたのとほぼ同時であった。
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