2.10年後

3/4
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 そんなことよりも、このあとのクラスHR(ホームルーム)が問題だ。  自己紹介は多分、今日一度切り。  自分のクラスの生徒の名前と顔も覚えなければならない。  校長先生は『おいおい覚えて行けばいいんですよ。』なんて言うけれど、それすらも十分プレッシャーになる新卒だ。  ふと視線を感じて、生徒たちの群れに目を向けた。  一人だけ真っ直ぐに見つめる男子生徒がいる。  背の高い、3年生。  隣の生徒に小突かれて、視線が逸れた。  そしてそのまま、こちらに目が向くことはなかった。  気のせいかな―  緊張してるから、生徒たちの反応に過敏になっているのかもしれない。  私はすぐにまた、意識を朝礼に戻した。  そして、緊張の一日が終わり、生徒たちが下校して、職員室へ戻ろうと渡り廊下を渡り、その角を曲がると―  目の前にいきなり腕が伸びてきて、大きく壁について行く手を阻んだ。  「壁ドン…?」  目の前を遮る腕から視線を上の方へ向けると、そこには長身のイケメンがいた。  「久しぶり、絵理ネェ…」  「はい?」  「忘れんなよって言ったよな?」  頭上からする声は少し低い。  忘れんなよ―  記憶の中の声は、もう少し高い。  そして、もっと低いところで聞いていたはずだ。     
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!