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街で一通りの買い物を済ませると、私は腕時計を見て思わずため息をつきました。
もう、夕方の6時。
早く家に帰らなくては。
私の住んでいるこの街では、夜になると奇妙な生き物たちがぞろぞろとやってくるのです。彼らはたいていの場合、陽気で愉快な者たちなのですが、彼らと話していると時間がどんどんと経ってしまうのです。
最近少し疲れ気味だった私は彼らと一緒に話すよりも、早く家に戻って夕食を済ませ、休眠をとる必要を感じていました。
そのようなわけで、私はいつもよりも家路を急いでいたのです。
空を見上げると、淡い青色の空はどんどんとオレンジ色の空に変化していました。灰色の混じった雲は、まるでこれから夜を連れてくる準備をしているようでした。
もう、夜が近づいている…。そんな焦りからでしょうか。私はいつもなら入らない小路に入ってしまいました。
あれ、この路どこにつながっているんだっけ…。
自信の無かった私は来た路を引き返すことにしました。踵を返して大通りに出ようとすると、ふと絵を描いている老人の姿が目に入りました。
路に入った時には気が付かなかったのですが、老人が組み立て式の椅子に腰かけて筆をなめらかに動かしています。
「こんばんは…」
私は少し興味を感じて老人に話しかけました。老人は、私を見上げて少し微笑むと筆をはしらせていた紙を見せてくれました。
老人の差し出した紙に描かれていたのは、息をのむほどに美しい青色でした。
「こんな美しい青色は見たことがないです…」
私がそう言うと、老人は苦笑して言いました。
「いやいや、この色はいつもあなたが見ている色ですよ」
私が呆然としていると、老人は持っていた筆を空に向かって掲げました。すると、空に残っていた青色がすっと老人の筆に吸い込まれていきました。
「私は、空の青色を吸い取って夜をつくる仕事をしているのです」
老人は微笑んで言いました。
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