夏の揚げ物はつらい

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 彼と別れたと言うと、女友達は事情を知りたがり、揚げ物の話をそのまますると、「馬鹿じゃないの!」と皆一様に詩子を詰った。 「そんなもの、いくらでも作ってあげればよかったのに!」 「暑いのは一瞬、いい男との結婚は一生なのに!」 「私なら、惣菜屋で買って皿に盛りつけるけどね」  みんな勝手なものだ。特に最後の意見は、詩子にとって有り得なかった。不誠実だ。  女友達よりも厄介なのは両親だった。まず怒った。「馬鹿!」報告の際、2人は声を揃えた。数日すると母がめそめそし始めた。「揚げ物を嫌がるような女に育ててしまった」なんてそれこそ馬鹿なことを言っていた。母とて夏の日はあまり揚げ物をしないのに。父はなんとか彼にとりなそうとしてくれたが、彼の方は取り付く島もなかったらしい。そりゃそうだ。恥ずかしいから詩子としてはやめてほしかった。  それにしても。赤い鞄を抱えた詩子はぼんやり思う。あの揚げ物事件。あれさえなければ詩子と彼は今でも一緒にいられただろうにと。冬場ならいくらでも唐揚げくらい作ったのにねと。
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