48人が本棚に入れています
本棚に追加
クルウがすました顔で言う。
「あのとき、もっと私をたよってくださればよかったのに、あなたは私をさけて……」
「それを言うな。恥ずかしいことを思いだすだろう?」
クルウは微笑しているから、わざと二人のナイショ話を持ちだしたのだ。
クルウに迫られたときのことを思いだして、ワレスは顔が紅潮してくるのを感じた。
ワレスたちのようすをベッドの上から、ニヤニヤ笑いながら、ジョルジュが見ている。ちゃっかり鉛筆を手に紙までひろげている。
「ジョルジュ! 何を描いている。やめないか」
「赤くなると女の子みたいで可愛いんだね。小隊長の恥ずかしいことってなんだろうな」
ハシェドに似た男をベッドに誘ったなんて、とても言えない。
「なんでもない。今すぐやめないと、たたきのめすぞ」
「それがな。あんたの後見人が、あんたの元気な姿を描いて送れば、ものすごい額の謝礼をくれるって言うんだよ。だから、もうちょっと、こっちにいようかなと」
「クソッ。しつこく砦にいる、ほんとの理由はそれだったのか。霊の仕業じゃないとわかったんだから、さっさと正規隊に帰れ」
「つれないなぁ」
ジョルジュには以前、ワレスの後見人のジョスリーヌを紹介してあるから、ムリをして危険な砦にいる必要はなくなったはず。変だなとは思っていたのだ。
言いあっているうちに、クルウがクスクス笑いながら部屋を出ていく。ワレスは追いかけていって呼びとめた。
「待て。クルウ。調べに行く前に、おれにつきあえ。中隊長のところへ行くんだが、一人ではまた何をされるか」
「用心棒ですね。わかりました」
クルウをつれて、ワレスは階段をあがっていった。
「中隊長。ワレス小隊長です。入ってもよろしいですか?」
「……入れ」
ギデオンはワレスになぐられた顔にアザを作っていた。思ったとおり、ワレスのケガよりヒドイ。入ってきたワレスを見て、不機嫌に言う。
「何がおかしい」
「私は何もおかしくなどありませんが?」
「今、おれを見て笑っただろう?」
「気のせいでしょう」
少なくとも顔には出していないはずだ。腹のなかでは大笑いしているが。
最初のコメントを投稿しよう!