九章

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 クルウがすました顔で言う。 「あのとき、もっと私をたよってくださればよかったのに、あなたは私をさけて……」 「それを言うな。恥ずかしいことを思いだすだろう?」  クルウは微笑しているから、わざと二人のナイショ話を持ちだしたのだ。  クルウに迫られたときのことを思いだして、ワレスは顔が紅潮してくるのを感じた。  ワレスたちのようすをベッドの上から、ニヤニヤ笑いながら、ジョルジュが見ている。ちゃっかり鉛筆を手に紙までひろげている。 「ジョルジュ! 何を描いている。やめないか」 「赤くなると女の子みたいで可愛いんだね。小隊長の恥ずかしいことってなんだろうな」  ハシェドに似た男をベッドに誘ったなんて、とても言えない。 「なんでもない。今すぐやめないと、たたきのめすぞ」 「それがな。あんたの後見人が、あんたの元気な姿を描いて送れば、ものすごい額の謝礼をくれるって言うんだよ。だから、もうちょっと、こっちにいようかなと」 「クソッ。しつこく砦にいる、ほんとの理由はそれだったのか。霊の仕業じゃないとわかったんだから、さっさと正規隊に帰れ」 「つれないなぁ」  ジョルジュには以前、ワレスの後見人のジョスリーヌを紹介してあるから、ムリをして危険な砦にいる必要はなくなったはず。変だなとは思っていたのだ。  言いあっているうちに、クルウがクスクス笑いながら部屋を出ていく。ワレスは追いかけていって呼びとめた。 「待て。クルウ。調べに行く前に、おれにつきあえ。中隊長のところへ行くんだが、一人ではまた何をされるか」 「用心棒ですね。わかりました」  クルウをつれて、ワレスは階段をあがっていった。 「中隊長。ワレス小隊長です。入ってもよろしいですか?」 「……入れ」  ギデオンはワレスになぐられた顔にアザを作っていた。思ったとおり、ワレスのケガよりヒドイ。入ってきたワレスを見て、不機嫌に言う。 「何がおかしい」 「私は何もおかしくなどありませんが?」 「今、おれを見て笑っただろう?」 「気のせいでしょう」  少なくとも顔には出していないはずだ。腹のなかでは大笑いしているが。
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