十一章

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 ワレスは嘆息する。 (あの、バカ……)  そうじゃないかと思っていた。 「……その話は真実だ。密告書はブラゴール語で書かれていた。ブラゴール人でも平民は書けないというブラゴール語でだ。もしも、ユイラ人の仕業なら、ユイラ語で書くよ。そのほうが匿名性が高い。  なのに、ブラゴール語で来たということは、その手紙を書いた人物は、ブラゴール語しか書けなかった。皇子の子として英才教育を受けているクオリルなら、ユイラ語も書けるだろう。ハシェドはブラゴール語しか書けない」  ハシェドはみずから望んで捕まったのだ。  ハシェドだって、おそらく、クオリルが嘘をついていることは知っていたはずだ。  いくらなんでも、いっしょに暮らしていれば、母のまわりに別の男のかげがあれば気づくだろう。ましてや、相手がブラゴール人なら、ハシェドの記憶に残らないわけがない。  クオリルが嘘をついていることを承知の上で、彼をかばうことに決めた。  それは、いったい、なぜ……?  ワレスは苦い思いをかみしめた。やはり、自分はハシェドの望まないことをしている。 (でも、おれは、おまえに生きていてほしいんだ)  それは、ワレスのワガママなのだろうか?  ワレスは言う。  たとえ我欲であったとしても、ハシェドを救うために、今すべきことを。 「ナジェルが伯爵に今の話をしてくれれば、ハシェドは死ななくてすむ。どうだ? 証言してくれるか?」  ナジェルは考えこんでしまった。 「それは……」 「なぜ? ここまで内情を知っていて、まだクオリルに加担するのか?」 「そうじゃない。おれが今、そんなこと言いだしたら、砦じゅうのブラゴール人に何をされるか。それこそ、私刑だ。若いやつらは、王宮近衛兵士になるんだって血気走ってるからな」 「そうか。たしかに、こういうことは必ず、どこかから話の出所がバレてしまうものだ。大切な証人であるおまえを危険にさらすわけにはいかない」  ワレスの口からブラゴール人たちに事の真相を説明したとしても、ユイラ人の言うことなんて信じないだろう。ワレスがハシェドのために作り話をしているとしか思ってもらえないに違いない。  では、どういう手に出るべきか……?  思案しているところに、外から扉がたたかれた。  アダムの声が来客を告げる。 「小隊長。ジアン中隊長が話があるってさ」 「入ってもらってくれ」
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