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扉がひらき、ジアン中隊長が入ってきた。
「忙しそうですな。例の件ですか?」
「まあ、そんなこところです。あなたにも会いにいかなければと、ちょうど思っていました」
「じつは私は今から、カンタサーラ城へ帰るのです。あなたには、ひとこと言っておこうと。ヘリオン伯爵に報告しなければならないので」
ワレスは少しのあいだ考えた。
頰づえをつくと、ゆたかなブロンドが卓上にこぼれる。純金の波のように、うずまいて輝く。
見るともなく、ワレスは視界に入るうずまきをながめる。
「私も参りましょう」と、顔をあげると、ジアン中隊長がドギマギしていた。
「たしかに、あなたの青い目は、怖いな。こっちの感情を見透かされそうで」
くどき文句みたいなことを言いだしたときに、盛大にワレスの腹の虫が鳴った。一瞬、全員がだまりこみ、そのあと大爆笑する。
「あなたのそんなところ、初めて見ました」と、クルウ。
「いいなあ。あんたも人間だったんだ」
アダムにも言われて、ワレスは顔が熱くなるのを感じた。
ナジェルまで笑っている。
「ハシェドがあんたのこと、いい人だって言う意味が、ちょっとわかった気がするよ」
「うるさいな。そういえば、今日は朝から何も食べていなかった。ずっと調査で動きまわっていたから」
ふだんなら、そんなときには、うまくハシェドが勧めてくれていたのだ。陰となり日向となり、ワレスを支えてくれていた。ハシェドがいなくなると、いつも、その存在の大きさを思い知らされる。
「いつまでも笑っているな。クルウ、おまえはアブセスを探してこい」
「アブセスをですか?」
「おれから大事な話があると言ってな」
「了解しました。アブセスの行動範囲なら把握しております」
次はジアン中隊長だ。
「出発を一刻ほど、のばしていただけますか? そのあいだにコーマ伯爵のおゆるしをいただき、支度をしますから」
「では、一刻後に前庭で」
「ええ。私も何人かつれていきます」
それから、ワレスはアダムを見なおす。
「アダム」
「おう」
なんだ、なんだ、おれにも一発、気合いの入った命令をくだしてくれ——という目で見るアダムに、ワレスはひらきなおって命じる。
「食事を一人前。大盛りでな」
アダムは二、三歩たたらをふんでから、笑って部屋をとびだしていった。
「おれは、どうしたらいいんだ?」と、ナジェルがたずねてくる。
「おれが砦に帰るまで、今までどおり、ふつうにしていればいい。必然的に砦を辞めるのは、次の輸送隊にまにあわなくなるが、かまわないか?」
「ああ。おれだって、いちおうこの件を最後まで見届けたいさ」
ナジェルが出ていき、ワレスは一人になった。
作戦の詳細を考えこむ。
「往復で三日。カンタサーラで二日つぶすことにして……」
ブツブツ言いながら思案しているところに、クルウが帰ってくる。
「アブセスをつれてまいりました」
「ああ。ご苦労」
アブセスは嬉々としたようすだ。
ワレスから重要な話があると聞いて、やっと自分も認めてもらえたと期待しているのだろう。
「ご用でありますか? ワレス小隊長」
目を輝かせるアブセスに、ワレスは残酷にも言いはなった。
「アブセス。おまえには砦を辞めてもらう」
アブセスの顔がかわいそうなくらい、こわばった。
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