十一章

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 扉がひらき、ジアン中隊長が入ってきた。 「忙しそうですな。例の件ですか?」 「まあ、そんなこところです。あなたにも会いにいかなければと、ちょうど思っていました」 「じつは私は今から、カンタサーラ城へ帰るのです。あなたには、ひとこと言っておこうと。ヘリオン伯爵に報告しなければならないので」  ワレスは少しのあいだ考えた。  頰づえをつくと、ゆたかなブロンドが卓上にこぼれる。純金の波のように、うずまいて輝く。  見るともなく、ワレスは視界に入るうずまきをながめる。 「私も参りましょう」と、顔をあげると、ジアン中隊長がドギマギしていた。 「たしかに、あなたの青い目は、怖いな。こっちの感情を見透かされそうで」  くどき文句みたいなことを言いだしたときに、盛大にワレスの腹の虫が鳴った。一瞬、全員がだまりこみ、そのあと大爆笑する。 「あなたのそんなところ、初めて見ました」と、クルウ。 「いいなあ。あんたも人間だったんだ」  アダムにも言われて、ワレスは顔が熱くなるのを感じた。  ナジェルまで笑っている。 「ハシェドがあんたのこと、いい人だって言う意味が、ちょっとわかった気がするよ」 「うるさいな。そういえば、今日は朝から何も食べていなかった。ずっと調査で動きまわっていたから」  ふだんなら、そんなときには、うまくハシェドが勧めてくれていたのだ。陰となり日向となり、ワレスを支えてくれていた。ハシェドがいなくなると、いつも、その存在の大きさを思い知らされる。 「いつまでも笑っているな。クルウ、おまえはアブセスを探してこい」 「アブセスをですか?」 「おれから大事な話があると言ってな」 「了解しました。アブセスの行動範囲なら把握しております」  次はジアン中隊長だ。 「出発を一刻ほど、のばしていただけますか? そのあいだにコーマ伯爵のおゆるしをいただき、支度をしますから」 「では、一刻後に前庭で」 「ええ。私も何人かつれていきます」  それから、ワレスはアダムを見なおす。 「アダム」 「おう」  なんだ、なんだ、おれにも一発、気合いの入った命令をくだしてくれ——という目で見るアダムに、ワレスはひらきなおって命じる。 「食事を一人前。大盛りでな」  アダムは二、三歩たたらをふんでから、笑って部屋をとびだしていった。 「おれは、どうしたらいいんだ?」と、ナジェルがたずねてくる。 「おれが砦に帰るまで、今までどおり、ふつうにしていればいい。必然的に砦を辞めるのは、次の輸送隊にまにあわなくなるが、かまわないか?」 「ああ。おれだって、いちおうこの件を最後まで見届けたいさ」  ナジェルが出ていき、ワレスは一人になった。  作戦の詳細を考えこむ。 「往復で三日。カンタサーラで二日つぶすことにして……」  ブツブツ言いながら思案しているところに、クルウが帰ってくる。 「アブセスをつれてまいりました」 「ああ。ご苦労」  アブセスは嬉々としたようすだ。  ワレスから重要な話があると聞いて、やっと自分も認めてもらえたと期待しているのだろう。 「ご用でありますか? ワレス小隊長」  目を輝かせるアブセスに、ワレスは残酷にも言いはなった。 「アブセス。おまえには砦を辞めてもらう」  アブセスの顔がかわいそうなくらい、こわばった。
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