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翌日。
昼すぎの食堂には、人影が少なくなりかけていた。混むのが嫌いなので、ワレスはわざとピーク時をさけ、このくらいの時間帯に来る。
今日もハシェドとともに食事をしながら、ワレスは両サイドを二人の少年に挟まれていた。
エミールとカナリーだ。
二人ともワレスのとなりを陣取って、にらみあったまま、一歩もひかない。
「あんた、あっちに行ったら」と、エミールが言えば、
「そっちこそ」と、カナリー。
「この人は、おれのものなんだからね」
「そんなこと、誰が決めたの?」
「隊長がさ。おれはこの人の恋人なんだから」
「嘘つき。ワレスさんはそうは言わなかったよ」
「だったら、聞けばいいじゃないのさ。ねえ、隊長?」
急にエミールに問われて、ワレスは返事に窮した。
言葉につまっているうちに、今度は反対のとなりから、カナリーがワレスの腕をつかんでくる。
「ね? 約束したよね。もう一度、抱いてくれるって。あのときの約束はどうなったの?」
甘ったるく、しなだれかかってくるので、エミールがムッとして、もう片方のワレスの手をとった。
「なんだよ。たった一回、寝たぐらいでさ。おれなんか、隊長のあのときのクセなら、なんだって知ってるんだ」
「そんなこと、僕だって知ってるんだもの」
「嘘ばっかり!」
「嘘じゃないよ。内股のこのへんに、刺青を入れかけたあとがある!」
あやうく、ワレスは口にふくんだザマ酒をふきだしかけた。が、そんなのは、まだ序の口で、
「下のヘアは髪より濃い金色で、ほんとの純金みたい!」
「口でしてくれるとき……が——」
「あのときの声なんて、こんなだからね!」
混みぐあいが少ないとはいえ、まだ大勢の兵士がいる。
二人が真昼の食堂で話すことではない内容をおおっぴらに暴露するので、ワレスは視線の集中砲火をあびた。
そうでなくても、この前の泥棒さわぎで、ワレスの顔と名前は砦じゅうに知れわたった。
若くて美形で、砦へ来てたった三月で小隊長にまでなり、次々、手柄をあげていく。
盗人の汚名をきせられたことでは悪名をとどろかせ、その濡れ衣を独力で晴らしたというので、今度はまた、ちょっとした英雄あつかいだ。
閨房の秘技を叫ばれれば、いやでも注目の的になる。
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