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服の下の素肌をもとめて、ハシェドはワレスの帯をゆるめた。足に手をすべらせ、服のなかへその手を入れる。下着のヒモをといても、ワレスは抵抗しなかった。
とびきり美しい大理石の人形のように、目をとじて体をなげだしている。
くちづけをかさねるうちに、ワレスの呼吸も荒くなってくる。
ハシェドの愛撫にこたえて身をよじり、甘い声をもらす。
今なら、ゆるされるだろうか? あたなとつながっても。
そうだ。いいじゃないか。
どうせ、あなたは節操がないし、おれとこうしたって、大したことじゃないんだろ?
それなら会えなくなる前に、一度だけ……。
だって、おれはあなたを愛しているんだから。
愛して——
——愛している。クリシュナ。
急にあの日の幻影が脳裏に浮かんだ。
たおれていた家具。
割れた花瓶。
そして……。
「わあッー!」
ふいにハシェドは正気づいて、はねおきた。
「おれは……」
おれは、あいつと……。
「あいつと、同じことを……」
涙があふれてくる。
ハシェドは頭をかかえて、しゃがみこんだ。
ワレスはまだベッドによこたわったまま、戸惑うようにハシェドを見ている。うるんだ瞳と上気した頰は、まるで初恋にふるえる少女のようだ。
だが、それは体だけの反応だ。心をともなってはいないのだと、ハシェドは知っている。
「ハシェド……?」
のろのろと起きあがり、ワレスはハシェドの背中に手をかけてくる。ハシェドはすくんで、その手をさけた。
「どうしたんだ? ハシェド」
「……おれは、あいつと同じことをした。あなたがほんとは、おれにこうされること、望んでないと知ってたのに」
「…………」
ワレスがためらいがちに何かを言いかける。
だが、その声が言葉になる前に、ハシェドは告げた。
「……見たんです。子どものころ。母が……乱暴されるところを」
あれほど軽蔑した。憎悪した。殺してやりたいと思った。
「相手は伯父でした。おれは母の悲鳴を聞いて、伯父になぐりかかりました。でも、ぜんぜん、かなわなくて……」
——やめて! ハシェドを叩かないで!
——むこうに行ってろ! ガキ!
ハシェドはけられて意識が遠くなった。
伯父は戸口に鍵をかけてしまい、ハシェドが気づいて立ちあがったときには、母はもう……。
「殺してやりたかったッ。あいつを……伯父を。ユイラ人を。みんな、みんな、死んでしまえばいい! ユイラ人なんか、みんな——」
号泣すると、あの日の余韻が耳にこだまする。
——愛していたわ。ギュスタス。でも、それは過去のことなの……。
ハシェドが泣いていると、ワレスが声をかけてきた。
「ハシェド」
ワレスはもう、いつもの冷静な小隊長にもどっていた。ハシェドの前で身づくろいをしている。
「おれは必ず、おまえをとりもどす」
言いすてて、ワレスは去っていった。
ハシェドは一人になった牢のなかで、自分の流した涙のあとを見つめた。
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