48人が本棚に入れています
本棚に追加
*
夜の本丸。
同じ城のなかでも、さすがに本丸の廊下は広い。
天井が高く、いやに足音がひびく。
殺伐とした石造りの城塞とはいえ、本丸には置物や彫像があり、装飾的な柱もあった。つまり、陰になる部分が多く、見通しがきかない。
ワレスはホルズとドータスをつれて、ここを見まわりしていた。
こんな眺望の悪いところで物陰に人が隠れていれば、かなり近づくまで気づけず、あわててしまうに違いない。
ましてや、それが親しい女なら、なおのこと。ぼうぜんとしているうちに襲われてしまうだろう。
場所は本丸のなかでも、一階。
食堂や広間もあるので、ワレスたち傭兵でも、ほかの階層よりは比較的よく知っている。
「なあ、小隊長」
さっきから、ワレスのあとをついてくるホルズが、いやにちょくちょく声をかけてくる。
「なんだ?」
「あ、いや……」
そのくせ、ワレスがふりかえると口ごもる。
ワレスが分隊長のころから部下だったから、仕事ぶりは理解しているが、今夜は、どうもおかしい。
「なんだ? 言いたいことがあるなら言ってみろ」
ホルズは頭をかいた。
「え? いや、その……今日のあんた、むちゃくちゃ、ヤバイぜ」
なあ、と言って、ドータスとうなずきあう。
ドータスの顔もニヤけて赤い。
「背中から襲っちまいたくなるよなぁ」
ワレスは苦笑いした。
六海州の男は、どいつもこいつも単純だ。粗野で短絡的。勇猛で俊敏。
だからこそ、手足として使う兵士には手ごろだ。
彼らの浅黒い肌を見て、ワレスはこれまで一度も思いもしなかった妄想にふける。
たくましい褐色の肌の二人を物陰にひきこんで、かわるがわる犯されたら……。
(ハシェドの指。ハシェドの唇……)
体がおぼえている。
ふれられたところすべてに、小さな火がともったようだ。
頰にも耳にも、ひたいにも、首すじ、ハシェドの指がすべった足の上、刺青のあとのある内股……。
(ふれまいという、おれの決心も、おまえの愛撫にかかれば、これほどたやすく、とろけてしまうものなんだな)
今なら、ハシェドに求められれば喜んで足をひらく。
ホルズたちが襲いたくなるのも当然だ。ワレス自身が、そういう気分なのだから。
(ハシェドがやめてくれてよかった)
でも、受け入れたかった。
(そうでなければ、おまえに最後までゆるしていた)
ゆるしてしまいたかったのに。
理性と欲望が、ワレスのなかでせめぎあう。
この欲望を抑えるには、てっとりばやく誰かと寝るのが一番だ。
最初のコメントを投稿しよう!