八章

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 *  夜の本丸。  同じ城のなかでも、さすがに本丸の廊下は広い。  天井が高く、いやに足音がひびく。  殺伐とした石造りの城塞とはいえ、本丸には置物や彫像があり、装飾的な柱もあった。つまり、陰になる部分が多く、見通しがきかない。  ワレスはホルズとドータスをつれて、ここを見まわりしていた。  こんな眺望の悪いところで物陰に人が隠れていれば、かなり近づくまで気づけず、あわててしまうに違いない。  ましてや、それが親しい女なら、なおのこと。ぼうぜんとしているうちに襲われてしまうだろう。  場所は本丸のなかでも、一階。  食堂や広間もあるので、ワレスたち傭兵でも、ほかの階層よりは比較的よく知っている。 「なあ、小隊長」  さっきから、ワレスのあとをついてくるホルズが、いやにちょくちょく声をかけてくる。 「なんだ?」 「あ、いや……」  そのくせ、ワレスがふりかえると口ごもる。  ワレスが分隊長のころから部下だったから、仕事ぶりは理解しているが、今夜は、どうもおかしい。 「なんだ? 言いたいことがあるなら言ってみろ」  ホルズは頭をかいた。 「え? いや、その……今日のあんた、むちゃくちゃ、ヤバイぜ」  なあ、と言って、ドータスとうなずきあう。  ドータスの顔もニヤけて赤い。 「背中から襲っちまいたくなるよなぁ」  ワレスは苦笑いした。  六海州の男は、どいつもこいつも単純だ。粗野で短絡的。勇猛で俊敏。  だからこそ、手足として使う兵士には手ごろだ。  彼らの浅黒い肌を見て、ワレスはこれまで一度も思いもしなかった妄想にふける。  たくましい褐色の肌の二人を物陰にひきこんで、かわるがわる犯されたら……。 (ハシェドの指。ハシェドの唇……)  体がおぼえている。  ふれられたところすべてに、小さな火がともったようだ。  頰にも耳にも、ひたいにも、首すじ、ハシェドの指がすべった足の上、刺青のあとのある内股……。 (ふれまいという、おれの決心も、おまえの愛撫にかかれば、これほどたやすく、とろけてしまうものなんだな)  今なら、ハシェドに求められれば喜んで足をひらく。  ホルズたちが襲いたくなるのも当然だ。ワレス自身が、そういう気分なのだから。 (ハシェドがやめてくれてよかった)  でも、受け入れたかった。 (そうでなければ、おまえに最後までゆるしていた)  ゆるしてしまいたかったのに。  理性と欲望が、ワレスのなかでせめぎあう。  この欲望を抑えるには、てっとりばやく誰かと寝るのが一番だ。
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