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考えていると、ホルズの声がした。
「あっれェ。おどろかせんなよ。エミールじゃねえか。なんで、こんなとこにいるんだ?」
ワレスがふりむくと、エミールが似合いの赤い上着を着て、柱のかげから手招きをしていた。いつもの小悪魔みたいな微笑で。
ホルズとドータスは無防備に近づいていく。
「今日は客、とれなかったのか?」
「こんなとこにいたら危ねえぞ?」
どくん。
ワレスの心拍数はいっきに高まる。
そのあいだも、エミールは白い手をゆらゆらさせる。
「わかってるよ。だからさ、部屋まで送ってよ」
「いいけど。どの部屋だ?」
「どこでもいいよう。客のない日って困るよねえ。寝るとこなくて」
「あとでいいなら、おれが買ってやるぜ」
「ええ? あとでぇ?」
「さきに部屋行って待ってろよ」
「うん。そうだなぁ」
どくん。どくん。
ワレスは三人の会話にわりこむ。
「エミール。おまえがホルズたちを客にしているとは知らなかった」
「かたいこと言うなよ。隊長、な?」と言ったのはホルズだ。
「べつに怒ってやしないさ。なりゆきに少しおどろいてはいるが」
「そこは金さえ払えば客だしよ。な、エミール?」
どくん。ドクン。ドク……。
「……おれたちは、三人ともエミールを知っているな?」
笑いながら、ホルズがエミールの肩に手をかけようとした。
「何を言ってんだよ。隊長。今さらわかりきったことを」
そのとき、エミールの白い手が、すっと——
「離れろッ。ホルズ!」
ワレスは叫んで剣をぬいた。
エミールの腕が蛇のように伸びる。
(蛇……のように?)
白く長くうねるものが、ワレスの目に焼きつく。
それが放心して腰をぬかすホルズの首にまきついた。
「バケモノ!」
ワレスのふった剣の切っ先に、ザクリと感触がある。
エミールの口から悲鳴があがった。
幻が消える。
「ホルズ! しっかりしろ」
「あ……ああ。すまねえ」
つぶやくホルズの首から、ぼとりと白いものが床に落ちる。
「なんだ、こりゃ? なあ、隊長?」
「ああ……」
ワレスは床に落ちたものと、壁に光る白い円を見くらべた。
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