八章

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 考えていると、ホルズの声がした。 「あっれェ。おどろかせんなよ。エミールじゃねえか。なんで、こんなとこにいるんだ?」  ワレスがふりむくと、エミールが似合いの赤い上着を着て、柱のかげから手招きをしていた。いつもの小悪魔みたいな微笑で。  ホルズとドータスは無防備に近づいていく。 「今日は客、とれなかったのか?」 「こんなとこにいたら危ねえぞ?」  どくん。  ワレスの心拍数はいっきに高まる。  そのあいだも、エミールは白い手をゆらゆらさせる。 「わかってるよ。だからさ、部屋まで送ってよ」 「いいけど。どの部屋だ?」 「どこでもいいよう。客のない日って困るよねえ。寝るとこなくて」 「あとでいいなら、おれが買ってやるぜ」 「ええ? あとでぇ?」 「さきに部屋行って待ってろよ」 「うん。そうだなぁ」  どくん。どくん。  ワレスは三人の会話にわりこむ。 「エミール。おまえがホルズたちを客にしているとは知らなかった」 「かたいこと言うなよ。隊長、な?」と言ったのはホルズだ。 「べつに怒ってやしないさ。なりゆきに少しおどろいてはいるが」 「そこは金さえ払えば客だしよ。な、エミール?」  どくん。ドクン。ドク……。 「……おれたちは、三人ともエミールを知っているな?」  笑いながら、ホルズがエミールの肩に手をかけようとした。 「何を言ってんだよ。隊長。今さらわかりきったことを」  そのとき、エミールの白い手が、すっと—— 「離れろッ。ホルズ!」  ワレスは叫んで剣をぬいた。  エミールの腕が蛇のように伸びる。 (蛇……のように?)  白く長くものが、ワレスの目に焼きつく。  それが放心して腰をぬかすホルズの首にまきついた。 「バケモノ!」  ワレスのふった剣の切っ先に、ザクリと感触がある。  エミールの口から悲鳴があがった。  幻が消える。 「ホルズ! しっかりしろ」 「あ……ああ。すまねえ」  つぶやくホルズの首から、ぼとりと白いものが床に落ちる。 「なんだ、こりゃ? なあ、隊長?」 「ああ……」  ワレスは床に落ちたものと、壁に光る白い円を見くらべた。
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