48人が本棚に入れています
本棚に追加
/142ページ
「いいかげんにしろ!」
ワレスは立ちあがり、二人の口を左右の手でふさいだ。
「うぐっ」
「それ以上しゃべると、二人とも縁を切るぞ」
「うっうっ」
「行くぞ。ハシェド」
早々に食堂をあとにする。ハシェドはうつむいたまま、ついてきた。
「まったく、毎日これでは、やりきれない」とは言うものの、ワレスにも責任はある。
エミールはワレスのもと部下だ。そのぶん、なじみも深い。食堂で給仕係をするようになってからも、ずっと、ワレスの愛人だった。
そのエミールをさしおいて、カナリーに手を出したわけだから、エミールが怒るのはしかたないことだ。いくら、あのときは自分にかかったぬれぎぬを晴らすためだったとはいえ。
一方、カナリーは、エミールが砦に来る前から、ワレスに目をつけていたらしい。この機会を逃すはずがない。
どちらも、ひかないわけだ。
ワレスが席を立つと、あわてて少年たちが追ってきた。
「待ってよ。ごめんよ。怒らないでよ。だいたいさぁ、もとはと言えば、あんたが、どっちつかずだから、カナリーがいい気になるんだ。なんとか言ってやってよ」と、エミール。
「さあな。勝手にやってろ」
「うわっ。最低。そういうヤツだって知ってたけどさ」
「だったら、つべこべ言うな」
「もう、頭にくるなぁ」
エミールがからみついてくる。
誰に買ってもらったのか、髪と同じ赤い上着を着て、小悪魔のようだ。兵士の食事の給仕係というのは名ばかりで、本業は男娼の給仕役にはピッタリだ。エミールが着ると、下品にならずに、よく似合っている。
ワレスの耳に赤い唇を押しつけるようにして、ささやいてくる。
「そんなこと言ってると、あのこと、バラしちゃうぞ」
エミールには弱点をにぎられている。
ワレスがハシェドを愛しているということを。
「たちの悪いヤツだ」
ワレスはエミールの頭をひきよせ、唇をかさねた。
周囲の視線は、ワレスたちに釘づけだ。
「どうやら、赤毛の勝ちらしいな」
「小隊長は天使より小悪魔がお好みなんだと」
「どこにでもいるんだよな。ああいう名物男」
「あの人は目立つもんなぁ。あの容姿」
「うん。あれだけキレイな男は、国内でもめずらしい」
「給仕とジャレてるところ見るとなぁ。変な気分になる」
そんな声も聞こえてくるが、寝技を公表されて、ここまで恥をかいたのだから、何があっても大差はない。
エミールを離すと、ワレスはかるく赤毛の頭をこづいた。
「いいかげん、機嫌をなおせ」
最初のコメントを投稿しよう!