九章

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「ロンド」 「はーい」  まのぬけた返事をするロンドを、ワレスはいきなり抱きよせた。 「な、な、な——? な?」  変な挙動をするロンドのフードをめくって、さっきクルウにされたようなキスをしてやる。  すると、ジタバタしていたロンドが、ピタリと動かなくなった。  こういう無気味な男だから、舌のさきが二つに割れていたらどうしようと、内心、思っていたが、口のなかはあたりまえの人間だった。 「もういいか」  つきはなすと、ロンドはへたりこんで、おほおほ笑う。 「もう死んでもかまいませーん!」 「勘違いするな。これは礼の前渡しだ。これから頼みごとをする」 「おほほ。いいんですよ。遠慮しなくても。いつでもベッドに呼んでくださいィ……」 「調子にのるな」  ぽかりとやると、ロンドの両目から涙がこぼれる。  泣くほど嬉しかったのだろうか?  いや、それとも痛かったのか……? 「どうもよくわからないヤツだ。まあいい。おまえには、これを調べてもらいたい」  大事に布にくるんで、ふところに入れていたものをとりだす。ワレスはそれをロンドに渡した。 「昨日、例の化け物が残したものだ。ホルズの首にまきついたやつをおれが切ったので、ひからびてしまったが」  とたんに、ロンドは泣きやんだ。むすっとする。 「なんだ。お腹のところがゴツゴツすると思ったら、これですか。わたくしはてっきり、あなたがわたくしを欲していらっしゃるのだと——」 「おぞましいことを言うな!」  みなまで言わせずに、ワレスは再度、ロンドの頭を平手ではたく。  ロンドは床に文字を書いて、すねた。  ワレスは身ぶるいしながら、 「それが、どんな生き物の組成か調べろ。白くて長い……蛇かミミズのようなものだった。組成がわかれば、正体の目星がつく」  言いながら、少しずつあとずさり、去っていく。 「ああーん。そんなにすぐ行ってしまわなくてもぉ……」  ロンドの声をふりきるようにして、ワレスは文書室を逃げだした。あっちでも、こっちでも逃げだしている気がする。 (やっぱり、ロンドは尋常な人間のつもりで接すると、大変なめにあうな。用心しないと)
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