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やっとの思いでつれだしたのはいいが、ユージイは、かなり臭い。彼らの部屋にこもっていた悪臭のみなもとは、まちがいなくユージイだ。
よく考えれば、ずっとベッドからおりてこないということは、水浴びもしていないだろう。大小の排泄はどうしていたのだろうか。
「アブセス。食堂から湯を持ってこい。誰でもいいから、廊下をウロついてるヤツを二、三人、手伝わせて。大至急だ」
アブセスを追いだすようにこき使っておいて、ワレスは窓を全開にする。
あの部屋の連中は、よくもまあ、こんな匂いに耐えていたものだと、ワレスがつぶやくと、急にユージイは平常心をとりもどしたのか、恥ずかしそうにうつむいた。
やがて、たらいいっぱいに湯が運ばれてくる。
「とにかく、おれは忙しいんだ。できるだけ早く、この事件を片づけたいからな。湯浴みしながら話してくれ」
ワレスが命じると、ユージイはなにやらモゴモゴ口のなかで言っている。ワレスに対する悪口らしかったので、
「イヤなら、おれは目をそらしてやるが? 裸を見られて恥ずかしいとでも言うのなら」
ユージイの態度はとたんに一変した。
「ダメです! ちゃんと見てください! 目をそらしちゃいけません。まばたきもしないでください!」
露出狂のようなことを口走って、思いきり服をぬぐ。
それを見ながら、あの雑巾のような服は即刻すてさせようと、ワレスは考えていた。
「それで、おまえはいったい何を見たんだ? ユージイ」
ユージイはもそもそと語る。
「……アイツは、どこからだって来るんです。アイツにとって壁は水みたいなもので、自在に泳ぐことができる」
「以前にも、そんなことを言っていたらしいな。だから、おまえの話に興味を持った」
「あの夜はリストンと組んで見まわりをしていました。私の任務は通常、闇の五刻から明けがた十刻までの本丸一階、西大廊下——」
「細かいことは必要に応じて聞く」
「はい。夜の廊下の見まわりが任務です。夜になると女の霊が出るというウワサは聞いていました。だから、見まわりのとき、女が立っているのを見て、すぐにわかりました。これが例の亡霊か……と」
「なるほど」
「女が話しかけてきました。今から思うと、夢のなかのような、変な感じの声でした」
「肉声ではないようだったということだな?」
ワレスにも思いあたる。
昨夜のエミールの声。たしかにエミールの声だった気はするが、どこがと指摘はできないものの、いつものエミールの声とは響きが違っていた。
姿が幻覚であるように、声も幻聴なのだ。
「女はなんと話しかけてきた?」
問うと、ユージイのおもてが急激に紅潮してきた。唇をかんで両手をにぎりしめ、全身をふるわせる。憤怒のためだとわかった。
「よりによって! アイツ、笑わせるッ。姉さんにでも化けてくれりゃ、おれだって自分からとびついていったのに!」
「知った女だったのだな?」
たずねたが、じつは聞かなくても、ワレスはその答えを知っていた。
ワレスが見たのは死んだ母だった。たぶん、ユージイも……。
「当ててやろう。おまえの母だろう?」
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