十章

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 とうとつに照れくさくなって、ワレスはユージイをつきはなす。わざとおおげさに両手をひろげて肩をすくめた。 「今のは忘れろ。言っとくが、おれはおまえを手なづけるために打ちあけただけだ。絶対にそうだ。そうでないわけがない」  ユージイは涙を流しながら笑いだした。 「あんたも素直じゃないね。でも、なんか、おれ、あんたのこと好きになった」 「勘違いするな? おまえは、おれの好みじゃない」 「わかってるよ。そういう意味じゃない」  ユージイは少年みたいに赤くなって、ことさら丁寧に体や髪を洗う。もう落ちついたようだ。 「では、続きを話してもらおうか」 「母さんだなんてぬかしやがったから、切りつけた。そしたら、急に姿が消えて、蛇みたいなものになった。白くて長い……母親に切りかかるヤツがいるとは思ってなかったんだろうな。化け物のほうがビックリしたみたいで、しばらく、ぶるぶる、ふるえてたよ」 「おれが見たのと同じものだな」 「そいつが壁や床を自由自在にもぐったり、まったく別の方向から急にとびだしてきたり……おれが切りつけたんで怒ったみたいだった。ぼんやりしてたリストンをつかんで、壁にひっぱりこんだんだ。  もう無我夢中で逃げたよ。あとのことは、よくおぼえてない。逃げて逃げて、走り続けて……そのうち、アイツのほうがあきらめたんだろうな。気づいたら布団のなかだった」 「やはり、蛇の一種かな?」  ワレスがつぶやくと、ユージイは首をかしげる。 「蛇だとしたら、ものすごい大蛇だ。アイツは何もない空中からは現れないんだ。壁や床のなかを泳ぎながら、体の一部を出して襲ってくる。全体が壁から出てるとこは見なかったが、そうとうな長さになると思う」 「壁や床から……か。それで寝台からおりられなくなったのか」 「土ならともかく、石の壁にもぐられたら、剣では太刀打ちできないだろ?」  そう。昨日も壁に丸いあとができていた。  あの化け物が現れた場所には、たぶん必ず、そのあとが残っている。 「霊ではなく実体を持つ何かだとわかったのはいいが、石にもぐる能力はやっかいだな。壁から出てきたところを捕まえるしかないのか」 「あいつにつかまれた人間は、ふだんなら入れない壁のなかも通れた。水か粘土か、やわらかいもののなかに引きこまれてるみたいに。リストンは壁にアゴまで埋まりながら、最後まで自分に起きてることが信じられないような顔をしていた」 「つまり、あれは固いものを貫通して移動しているわけではなく、自分の周囲の物質を一時的に溶解させながら進んでいるわけだ。やつが通りすぎると、物質はもとにもどる。壁や床に残ったあとが、そこだけ新しく見えたのは、いったん溶解して凝固することで、松明脂のくすみや手垢などの汚れが消えてしまうからだ」  ユージイは顔をしかめる。 「難しいことはわからない。でも、そんな感じだった」
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