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「もういい。これ以上聞くと背中がかゆくなる。クソッ。どいつもこいつも、おれに人格の破壊されそうなセリフを何度も言わせようとして」
「私はまだ一度ですが?」
「もういいと言ってるだろ——アダム。なんの用だ? 早く言え」
八つ当たりぎみに話をふられて、アダムは苦笑した。
「あいかわらず自分勝手な人だなぁ。あんたがブラゴール人のことを調べてるっていうから、わざわざ教えに来てやったのに」
「ブラゴール人がどうかしたのか?」
ワレスがたずねると、アダムはよこ目でユージイをながめた。ナイショ話ということだ。
ワレスはユージイに命じる。
「ユージイ。服を着たら寝台へあがっていいぞ。二段だから、天井からも床からも遠くて嬉しいだろう? とりあえず、ジョルジュが帰ってきたら、ハシェドのベッドを使わせるとして……」
「いえ、もう、平気ですが……しかし、そうおっしゃるなら……」
ユージイは寝台にあがっていった。
ワレスはアダムとクルウを窓辺の卓のほうへ手招きする。
「で?」
「うん。あんたのお探しのブラゴール人。クオリルか。もう遅いよ。やられた」
「やられた? 死んだのか?」
暗殺を思いうかべたのだが、アダムの答えは、
「あんたも激しい人だな。いっきに殺すなよ」
「違うのか?」
「違うよ。逃げたん——うわッ!」
逃げたんだ、が、逃げたんうわになったのは、ワレスがアダムの胸ぐらをつかんで、しめあげたからだ。
「逃げただとッ? すぐ追うぞ。どこへ行った?」
「うわ、うわ、うわ、違う。ちょっと待てって」
「違う? 嘘をついたのか? きさま」
「ち、ちが……嘘なんかついてない」
つめよられて、アダムはたじたじとなる。
「ほんと、激しい人だな。前だって、ちゃんと、あんたに手を貸しただろ? とにかく聞けって。そんな刃物みたいな目で、おれのこと見てないで」
「ふん」
乱暴なしぐさで椅子に腰かけ、長い足を組むワレスを見て、アダムは苦笑した。
「こんな人でも、なんか弱いんだよな。さからえないっていうか」
「いいから早く」
「はいはい。おれも、あんたに言われる前から変な気はしてたんだ。おれの隊にも一人いるけど、辞めると言うし、オルガの隊もそうだと言うだろ? ぐうぜんかとも思ったが……」
「だから何が?」
イライラするワレスに、アダムは告げる。
「ブラゴール人が砦を辞めていくんだよ。クオリルってやつもな」
くそッ!
ワレスは内心で罵り、こぶしをにぎりしめた。
「いつだ? いつ辞める?」
「次の輸送隊の来る日に」
手まわしがいい。
皇都から逃亡した皇子の息子としてハシェドが捕まった今となっては、ほかのブラゴール人が辞めることをとどめることはできない。
「最初から、そのつもりだったんだ。あいつ、ハシェドのお人よしにつけこんで、一人だけ生贄にする気か」
ワレスが言葉を吐きすてたとき、とつぜん、入口の扉がひらいた。一人の男が入ってくる。
「そのとおりだよ。隊長」
ワレスの隊のブラゴール人、ナジェルだった。
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