01.

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 高校時代にバイト代で購入した原付は、まだまだ元気だ。金色になるまで脱色をした派手な髪の藤村春翔は、大通りを黒いそんな原付で走っていた。  夏へとなっているので、日光が日サロで焼いた肌に照りつけて熱い。そして日差しが眩しいのだが、原付を走らせる事により前から受けている風は気持ちが良い。  目を眇めながら走っていると、細身のシルエットの黒いパンツのポケットに入れているスマートフォンが震え始めた。  今日はこれから飲みに行く約束を高校時代の友人としている。その中の誰かが連絡をして来たのだろう。  通話かもしれない。それならば原付を停めなくてはいけない。原付に乗ったまま通話に出ると警察に捕まってしまう可能性があるので、そんな事はしたくない。警察に捕まってしまうと面倒である。  そんな事を考えていたのだが、直ぐにバイブが止まった事からメッセージであったのだという事が分かった。通話では無いのならば、急ぎの用件では無いのだろう。  高校を卒業してから二年が経過して、先日二十歳を迎えた。飲酒する事ができるようになり春翔が共に飲みに行っているのは、高校時代の友人ばかりだ。 同じバイト先で働いている者と飲みに行った事がまだ無いのは、そんな事をするほど仲良くなった相手がまだいないからだ。  周りからよく馬鹿だが性格は悪く無いと言われている。決して、性格が悪いので誰とも仲良くなる事ができていないのでは無い。バイトが長く続かないからだ。  昔から物覚えが悪く何回言われても仕事を覚える事ができず、直ぐにバイト先の客や先輩。そして、店長から小言を言われる毎日になってしまう。それに耐えられず辞めてしまうという事を繰り返して来た事により、初めてバイトをした高校一年の十六歳から、今まで既に六回バイトを変えている。  ふと春翔は、バイトをするようになってからまだ六年しか経過していない事に気が付いた。そして、一年以上続いたバイトが一つも無い事に気が付いた。  このままでは駄目だ。長く仕事を続けなくてはいけない。今のままでは駄目人間である。  今までしたバイトが向いていなかっただけかもしれない。向いている仕事であれば、続くかもしれない。 (向いてるバイトなぁ……)  眉根を寄せながら考える事によって、春翔は友人たちから頻繁に言われている顔が良いんだからホストでもすれば良いのにという言葉を思い出した。
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