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「うわっ!」
後部座席に倒れ込んでいた春翔は、体を起こし体を反転させた。車から降りるつもりであったのだが、異国の服を着た男に扉を塞がれていたので、その場から動く事ができなくなってしまった。
異国の服を着た男が後部座席に背中を預けると、扉を閉めた黒尽くめの男たちも車へと乗った。片方の男が運転席へと座ったので、乗っている車はいつでも発車できる状態へとなっていた。
その時になって、反対側にも扉はある。反対側から降りれば良いのだという事に、春翔は気が付いた。
慌てながらも反対側の扉を開けようとすると、その前に車が走り出した。
「えっ……開かねえ!」
動いている車の扉を開ける事ができないのは当たり前の事であるのだが、今はそんな事にも気が付く事ができなくなっていた。諦めきれずがちゃがちゃと扉を開けようとしていると、背後から同じ後部座席にいる男の視線を感じる。
(……もしかして、俺売られるんじゃねえのか?)
車を傷つけた春翔を売る為に、男たちは車に乗せたのだとしか思えない。それ以外に、車に乗せる理由が思いつかない。
売られた後、内臓を取られてしまうのかもしれない。頭の中にそんな考えが浮かぶと、恐怖から顔が青ざめてしまう。
車から降りなくてはいけない。そう思っているのだが、恐怖心から動く事ができない。
心臓の音が煩いぐらい大きくなっているのを感じながら硬直していると、車が高層の建物の敷地の中へと入って行った。
車が停まったのは、前を何度も通った事はあるが中に入った事は無い高級ホテルの正面玄関であった。このホテルは、良い部屋になると十万以上一泊するのに掛かると聞いた事がある。
車に近づいて来た帽子を被ったドアマンが扉を開けた。
男たちはここに何か用があるようだ。こんな所にどんな用件があるのかという事を、全く想像する事ができない。
(もしかして、ここで人身売買オークションがあんじゃねえのか!)
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