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おおらかに、朗らかに。青き空は、目の前に大きく広がっている。
いくつかの、点々と浮かぶ雲をコントラストとするその姿は、地球上に巣くうどの生物よりも美しい。
「……あぁ」
気の抜けた声を口の中から外へと押し出し、透明な水に浮かんだ男は瞬いた。パチリと一度、閉ざされ、開かれたその視界の中に、写り込む景色は変わらない。
感情と感覚。その両者に任せて塗り潰されたかのような、透明な空の色。今にも溶けてしまいそうな危うさすら感じられるそれに、男は小さな息を吐き出した。共に、白い雲を突き抜けて、一つの機械が飛び出してくる。
尾を引くように、雲で直線を描くそれは、飛行機だった。恐らくはその中に、大量の乗客を乗せているであろうそれは、男の視界の中でピタリと動きを止めて停止する。
翼を広げる真っ白な機体に、ゆっくりゆっくりと書き込まれていく影の色は、どこか繊細でほの暗い。
いっそ自分にもその色を授けてくれと、そう、思えるほどに……。
──バシャッ
近くで水が、大きく跳ねた。ちらりと横を見てみれば、いつの間にやら自分の傍には船がある。
どこぞで刈り取ったらしき木材を使用し、簡単に作成されたそれは小舟だ。見た限りではぎりぎり二人、乗れるか乗れないかの大きさである。
揺らめく波に押されるように、浮かんだ船と、男の体が僅かに動いた。されど起き上がることをしない彼は、ただそこで、プカプカと浮いているだけ。その間にも船には次々と小物や道具が追加されているので、時に忘れ去られた気分になってくる。
寂しいような。悲しいような。
とりあえず、不思議な感覚に襲われる。
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