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「あの、私、お名前を訊くのを忘れてしまって……よかったら教えていただけませんか?」
「あぁ、名乗っていませんでしたか。俺は東藤雄隆といいます」
「とうどうゆたか、さん」
「はい。平凡な名前でしょう」
「そんな、平凡さでいったら私もなので」
「いや、君の名前は美しいです」
「!」
(う、美しい?!)
そんな事をいわれたのは初めてで、少し──いや、随分驚き焦ってしまった。
「日本はいいですよね。漢字があるというのがいい」
「漢字?」
「平凡な響きの名前でも当てられた漢字で如何様にも美しくなる」
「……」
「そのいい例が君の名前です」
「え」
「俺は十喜代さんからお孫さんにつけたという名前の由来を訊いた時からすっかり十喜代さんのファンなのです」
「……そう、ですか」
何故かまた涙腺が崩壊しかかり、慌てて手元のフライパンに意識を集中させた。
(なんだか……変、なの)
この人──東藤さんが祖母の話をするととても胸が切なくなる。
まるで孫の私よりも祖母と濃密な時間を過ごしていたのではないかと思われてほんの少しだけ東藤さんが羨ましいと思ってしまった。
「お待たせしました」
「おぉ、美味しそうだ。いただきます」
スプーンを持つ手を合わせ挨拶をしてから東藤さんはピラフを食べ始めた。
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