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そうして突然やって来た来訪者は颯爽と去って行った。
私に個人的な連絡先を書いたメモを残して──。
(なんだか夢みたいな時間だったな……)
悟流さんがいなくなった店内はまた小さなクラシック音楽が流れるだけの静かな空間になった。
悟流さんから手渡された連絡先を携帯に登録しながら(今はまだ私と悟流さんが繋がっていればいいかな)なんて考えていた。
雄隆さんに内緒にしているというのは正直気が引けるけれど、それでもやっぱり私は何かしらの形で東藤家と繋がっていて、いつか雄隆さんと家族が寄り添えるきっかけにでもなれればいいなと思った。
(だって雄隆さんの家族は私の家族でもあるのだから)
自分の家族と同じように大切にしたいと思ったのだった。
ドアの鈴がカランと音を立てたのに反応して「いらっしゃいませ」と挨拶した。
「ちょっと美野里ちゃん!」
突然すごい剣幕でやって来たのは蘭さんだった。
蘭さんは店内を見渡してからカウンターに寄って来た。
「蘭さん? どうしたんですか、突然」
「……今先刻、悟流さんが来ていたでしょう」
「!」
小さな声で囁かれた言葉に内心ドキッとした。そんな私に蘭さんは怪訝そうな表情を浮かべながら詰め寄った。
「ねぇ、何か言われた? 大丈夫だった?」
「えっと蘭さん、とりあえず座ってください。コーヒー淹れますよ」
「……美野里ちゃん、随分落ち着いているのね」
私の様子を見た蘭さんは少しホッとしながらカウンター席に腰を下ろした。
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