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「──さてと、じゃあそろそろ帰ろうかな」
用事は済んだとばかりに蘭さんはにこやかな表情を浮かべながら席を立った。
「とりあえず美野里ちゃんが苛められていなくて安心したわ」
「気を使ってくださってありがとうございました」
「いいのよ。わたしが勝手に気になっただけだから。じゃあ、先生にもよろしくね」
「はい、ありがとうございました」
蘭さんの来訪は私にとってまたひとり、深い絆で傍にいてくれる人がいるのだと知れたひと時だった。
カチャンとお店のドアを施錠してほぅとひとつ息を吐いた。
今日も無事にお店を閉めることが出来た。
いつもと同じことの繰り返しだけれど、そんな毎日が送れることが幸せで堪らない。
「さてと帰ろうかな」
独り言のように呟きながら愛おしい人が待っている家へと向かった。
お店から歩いて数分。すっかり見慣れた我が家が見えて来た。
「ただいま」と告げながらガラガラと音を立てる引き戸をくぐり家の中に入る。
静かな室内は薄暗く一見人がいないようだ。
荷物を居間に置き静かな足取りで雄隆さんの仕事部屋前までやって来た。
部屋の障子に向かって「雄隆さん?」と声をかければ中から『あぁ』と声が返って来る。
ゆっくり障子を開けると文机周辺だけがスタンドライトで明るく照らされている。
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