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「君が何をしてくれるのか愉しみにしていよう」
「何をって……別に何もしませんけれどね」
もしかしたら雄隆さんにとっては全然面白くない、他愛のないことかも知れない。
それでも私は妙にわくわくして仕方がなかった。
雄隆さんから解放されて台所で夕ご飯の支度を始めた。
といっても朝のうちに大体の下ごしらえが済んでいるので後は焼いたりお皿に盛ったりするだけなのでものの15分ほどで出来上がった。
そして徐に水屋の引き出しに仕舞っておいた箱を取り出し中身を見た。
(これをすっかり忘れていたなんて)
我ながら忘れっぽいなぁなんて苦笑した。
買った時には色々想像していたにもかかわらず、実際使う日が来るとはその時は思いもしなかった。
『それ、好きな人と使うんだ』
そう言われたあの日が懐かしいと思えてしまうのは昼間の手紙のせいだろう。
(そうです。使うんです、今日)
私は手に取った湯呑みを丁寧に洗った。
「雄隆さん、ご飯出来ましたよ」
大きな声で呼べばものの数秒で居間にやって来る雄隆さん。卓袱台に並べられた料理を見て「今日も美味しそうだ」と微笑んでくれた。
そして視線がお茶が淹れられた湯呑みで止まった。
「ん? 湯呑み、変えたのか」
「えぇ、ちょっと思い出して」
「思い出してって……それ、君のと対になっていないか?」
「そうです、いわゆる夫婦湯呑みです」
「そんなのいつの間に」
「……」
事の経緯を食事の合間に話して訊かせた。
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