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その日もお店を終え、締め切り間近の原稿を芽衣子宛に送ってから軽く店内を掃除していた。
すると遠くから携帯が鳴っているのが聞こえた。タイミングからして芽衣子からだと思い急いで携帯を手に取った。
「もしもし」
『あ、美野里? わたし』
「うん。原稿届いた?」
『確かにいただきました。今回も美味しそうだね』
「そういってもらえると嬉しいよ」
結婚してからも芽衣子が担当する雑誌の料理レシピの連載は続いていた。
そして嬉しいことに今まで連載されて来たレシピをひとつの本にまとめて出版するかも知れないという話が出るまでになっていた。
『前に言っていた本なんだけど正式に決まったよ』
「本当?!」
『うん。後で詳細まとめた書類を送るから目を通しておいてもらえる?』
「分かった」
(嘘みたい! 本を出してもらえるなんて)
今までやって来たことが形として残る喜びに浸っていると──
『あ、そういえばわたし、変な話訊いちゃったんだけど』
「変な話?」
突然話題が変わったことに首を傾げた。
そして芽衣子の話を訊いて行く内に段々恥ずかしさとちょっとした怒りで先ほどの喜びが吹き飛んでしまった。
芽衣子は『あんまり怒らないで』とフォローしていたけれど、告げられた話は私的には今後の信用関係にまで及ぶかも知れないだろうと思うほどの衝撃の内容だった。
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