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──障子の前でいつものように帰宅の挨拶をすると珍しく雄隆さんが障子を開けた。
「おかえり」
「ただいまです」
やけに機嫌がよさそうにほほ笑む雄隆さんに一瞬見惚れてしまう。
(って、ダメダメ!)
気を引き締めなくては! と思い、冷静になって言葉を選びながら雄隆さんに問いかけた。
「雄隆さん、お仕事の進み具合はどうですか?」
「あぁ、丁度区切りがついたところだ」
「そうですか」
これはタイミングがいいと思っているといきなり抱きしめられた。
「美野里」
「っ!」
引きずるように私を部屋の中に入れる雄隆さんがこれから何をしようとしているのかを瞬時に察し、慌ててその拘束から逃れた。
「どうした」
「雄隆さん、私、訊きたいことがあるんです」
「訊きたいこと?」
何をいい出すのだといわんばかりの表情になった雄隆さんに「其処に座ってください」と告げた。
益々訳が分からないといった顔をした雄隆さんはそれでもその場に律儀に正座した。私もそれに倣って雄隆さんの前で正座した。
「どうした」
「雄隆さん、私に何か隠していることはありませんか?」
「──は?」
突然何を言われたのか分からないという顔の雄隆さんに少しだけ怖い顔をして続けた。
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