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今日もまたいつもの常連さんたちの賑やかな声でお茶屋の一日が始まる。
「いらっしゃいませ」
「はいな、いらっしゃったぞい」
「今日もえぇ天気じゃなぁ」
「そろそろ田んぼに水を引かんとな」
「かき菜がよぉけなってるで後で家に持って行くからな」
私がこの町にやって来て祖母の残したお茶屋を再開してから二度目の建午月を迎えようとしている。
「美野里ちゃん、随分大きくなったのぉ」
「この腹の丸さは女じゃな」
「いやいや先が尖っとるで男じゃ」
「どっちでもえぇがな」
「あははは……」
おばあさんたちは代わる代わる私の膨らんだお腹を擦っていった。
雄隆さんとの子どもを授かったのはあの日、初めてふたりして子どもが欲しいと願い、体を重ねた日からそう長くはなかった。
妊娠を知った時の雄隆さんはいつものクールなイメージとは全く違ったはしゃぎぶりを見せ、つられて私も子どものように喜んだ。
子どもを授かることを恐れていたとは思えない感情が湧いたことが不思議だった。
いざとなったらちゃんと受け入れることが出来るのだと知って、より一層の幸せを感じた。
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