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お腹が目立ち始めてからお店に来る人たちに祝福の言葉をもらったり、無理しないように気を使ってくれたり、そんな人々の優しさに触れる度にどんどん優しい気持ちが芽生えて行った。
此処に来たばかりの時は過去に起こった出来事に怯え震え慄き、再び恋をするなんて考えられなかったというのに。
(きっとおばあちゃんが導いてくれたんだよね)
前からもそう思っていたけれど、妊娠してからは殊更強くそう思うようになったのだった。
そろそろ閉店時間になり、店内にお客さんがいなくなった頃合いを見て店仕舞いしようと思った。
その時カランと聞こえた鈴の音に視線を向けると雄隆さんがいた。
「迎えに来た」
「ふふっ、いつもタイミングいいですね」
「そうか? ──まぁ、それはそうかな」
「え?」
「少し前から店内を窺っていた」
「……また盗み見していたんですか」
「盗み見とは言葉が悪い」
「もう、雄隆さんは前科があるんですからね」
「前科……嫌な言葉だな」
「ふふっ」
お腹が大きくなってからこうやって店仕舞いの頃になると雄隆さんが迎えに来てくれるようになっていた。
それは私を心配しての行動だけれど、わざわざ迎えに来てもらうほどの距離ではないので気にしないでと遠慮したのに、勿論そんな私の遠慮は一切聞き入れてもらえなかった。
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